第23話


午後5時―――



あたしは神代に借りた傘を持って、家の近くにある国立病院を訪れた。



この病院には……






乃亜が眠ってる―――






「乃亜姉、来たよ」



あたしは乃亜姉の白い寝顔に語りかけた。



乃亜姉の瞳は固く閉じられ、口元には酸素吸入マスクが被せられている。枕元にはドラマや映画で見るおなじみのバイタルモニタが機械的な音を鳴らしていた。その音は早くもならず遅くもならず、一定している。



乃亜姉のやせ細った白い腕には点滴が刺さっていて、それが痛々しい。



パイプ椅子を引き寄せると、乃亜姉のベッドの脇に腰を下ろした。



「今日はね、乃亜にお土産持ってきたんだ」



無言の乃亜姉に向かってあたしは語りかける。



当然ながら返事はない。





あたしはベッドの脇にそっと神代から借りた傘を置いて無言で去った。



帰り道は病院の売店で神代から借りた傘に似たようなものを勝って帰ろう。そして返す口実ができれば、また神代と話せる。



そう、単なる口実だよ。



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