第19話
アタシハ先生ガ好キナンダヨ。
「お、大人をからかうんじゃない!」
そう、からかっているのだ鬼頭は。こちらの慌てふためく様子を見て楽しんでいる。白紙の答案用紙は僕の困惑する姿を見たかっただけに違いない。まったく、悪趣味にも程がある。
しかし鬼頭は
「別に。からかってなんかないし」
また髪を掻き揚げ鬼頭は面倒くさそうに呟く。
雨の匂いに混じって、またあの香りが漂ってきた。
「まったく……。反省していないようだね。分かった。確かに君は追試で合格に十分な点数を取ることができるだろうがね。春休みまでの半年間、僕の助手をするように」
鬼頭がどうして白紙で試験を提出してきたのか理由は分からなかったし、たとえ追試を受けたとしても満点に近い点数を上げることは確実だ。となると、鬼頭が今回白紙で提出してきた理由が分からなくなる。最初は単にからかっているだけだと思ったが、この態度からしてそうでもなさそうだ。
「何それ?」鬼頭は眉間に皺を寄せた。
綺麗な顔立ちだけに迫力がある。
僕は怯みながらも、
「これは罰だ。いいね」
と言い切った。
鬼頭は立ち上がり机に手をつくと前のめりになって僕の顔を覗き込んできた。
またあの香りが一層強く僕の脳内を刺激する。
「”罰”って今頃流行らないよね。いいの?教育委員会に訴えても。不当な理由で先生に罰を食らいましたって」
鬼頭は何を考えているのか分からないにっこり笑顔で常に僕の先を行く。
「教育委員会なんて怖くない。僕は正しいことをしたと思っている。生徒が”不真面目”な行動をしたのなら注意してそれなりのペナルティを受けてもらうのも教師の務めだ」
怯んじゃだめだ。僕は必死に自分を言い聞かせて目を上げた。怒ってはいけない。感情を露わにしたら鬼頭に遣り込められる。
「ふーん、先生って意外に熱血漢」鬼頭は何が面白いのかふっと笑って体をひっこめた。
”罰”に対して『受ける』とも『受けない』とも返事はかえってこなかった。
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