第16話



◆◆◆◆◆◆◆◆






僕は今、鬼頭 雅と向き合っている。




放課後の数学準備室―――




準備室自体はあまり広くない。約六畳程だが、常勤の教師は『準備室』と言う名の個室を与えられていて、それぞれ授業の準備や研究に利用できるのだ。大学の小さい版だと思ってくれればイメージできるかもしれない。




僕の『数学準備室』は授業で使う教科書はもちろん、授業に利用できそうな参考書やこれまでのテスト問題や解答などのプリントをファイリングしたファイルやらが詰まった本棚が片側の壁に立っていて、部屋の中央には仕事をするためのデスクが置いてある。その他、授業で使う大きな定規や分度器やコンパスと言う備品は個人で用意したカラーボックスに収まっている。






「白紙で答案用紙を提出ってどういうこと?」






その中央の机を挟んで椅子にきちんと腰掛けてる鬼頭に僕は答案用紙を突きつけた。






「どうって、意味なんてないよ」






ぞんざいに言って、優雅に髪を掻き揚げる鬼頭。最近の生徒はあまり敬語を使わないが、いちいち気にしてない。



けれど、状況が状況だ。



まるで反省の色が見えない鬼頭に、何か言い返そうと思ったが、彼女が髪を掻き揚げた




その瞬間、とても良い香りが香ってきたのだ。




言い返そうと思って口を開きかけたが、思わずその口を閉じた。




ちょっと甘くて爽やかで、それでいて上品さがある。






何だろ?香水かな?




その香りは鼻にとても心地良い。







ずっと嗅いでいたいような、落ち着く香りだった。



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