第10話


僕は去年、楠のクラスの担任だった。



何かに悩んでいることがあるらしく、楠はいつも下を向いていた。



元来、明るい性格なのに。



あるとき僕は「何か悩み事があるの?」と問いかけた。



楠はそのとき




「好きな人がいるけど……


絶対に許されない恋で」





と言った。




許されない恋……



「ふ、不倫はだめだよ!」



すると楠はぷっと吹き出して、



「やだぁ、そんなんじゃないよ」と笑っていた。






その笑顔が今でも離れない。




「雨……止まないな……」



まこがペンを止めて言った。



保健室の窓から見える雨空はどんよりと暗く、



まるで僕の心のうちを現してるように思えた。





それともこれから起こる悲劇を……





予兆して悲しんでいたのかもしれない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る