第3話


神代かみしろってうちの高校の数学の教師だ」



そう言ったのは乃亜姉のいっこ年上の明良あきら兄。明良兄が言うに“かみしろ”は神の代と書くらしい。



「俺がもっと早く家に帰っていれば……」



明良兄は顏を覆った。



その日、その時間、乃亜のお父さんは仕事、お母さんは買い物に出ていて、明良兄は友達とカラオケに居たみたい。



遺書と言う遺書らしいものは風呂場をはじめ、乃亜姉の部屋にもなく原因は不明。



ただ分かってることは―――





「じゃあ、その先生と何かあったって言うの?」





「さぁな。でも乃亜はそいつのこと好きみたいだった」



明良兄は悔しそうに言って、腕組をしていた。



そう言えばこの頃、乃亜姉から聞かされてた「恋」の話。相手が誰だとはあたしは聞いていない。



「付き合ってたの?」



教師と生徒だから、禁断……或は叶わぬ恋だと思って悲観したのか―――



「分かんねぇ。でも親しそうにしてたのは事実だ」







あたしは唇を噛んだ。



「じゃあそいつが、乃亜姉を自殺に追い込んだんだ」



「いや、まだ分かんねぇだろ、第一遺書だって見つかってないし」



いつもどこかちょっと短気で喧嘩早い明良兄も、ことの重大さに追い付けていないようで、尻ごみをしているのが分かった。



「お兄に言えないことだってあるんだよ。その先生ってのは既婚者?」一応聞いてみた。意味がない質問だと分かっていたけれど。



「いや、独身だったな。人気のある教師だよ。俺も二年の時担任だった。今あんま流行らない熱血漢はあったけどな。でも不思議と生徒からはやたらと人気があったな」



あんなに楽しそうにあたしにあれこれ話し聞かせてくれた。



恋する乃亜姉はあんなにきれいだった。



いつかあたしも乃亜姉のように、『真実の愛』ってものを見つけて、乃亜姉のようになるんだ、



と言う目標でもあった。





「その男が手ひどく乃亜姉をフったんだよ。じゃなきゃ死の淵でその教師の名前を口にする?これは乃亜姉からのメッセージなんだよ。直接死に追いやった原因じゃないかもしれないけど何か知ってて黙ってた可能性だってあるし。



許さない」





乃亜姉から未来を奪った男。



笑顔を奪った男。







絶対に……







許さない。




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