四章

第26話

19.5話:孤独な者よ、君は想像者の道を行く


「…一匹狼ね。」

「…一匹狼ですねぇ。」

「…え?1人でいるだけじゃね?」

「馬鹿は黙ってなさい!」

ゴツンッと鈍い音がする。

「馬鹿じゃ、ねぇっ!」

頭を抑えながら反論する。

「…ウルッせぇよお前ら!!」

とうとうゴールドが叫んだ。

ここは死神界。その一角のビルだ。

その一つの部屋に、机に足を投げスマホを弄るゴールド。

それをドアから見る3人。

上から

ツンデレガール

生真面目な丸メガネ

使い物になる(多分) 犬

彼らのこのふざけた名前は本名…ではないが、一種のコードネームである。

死神には名前が無い。

その為、区別を付けるためお互いに名前をつけ合った訳だ。

だが、皆見た目で適当に付けた為、ヘンテコな名前が出来上がった訳である。

しかし、まあ呼べれば良いので文句を言いつつ呼びあっている。

…と、その話は置いといて、これはゴールドが死神(五柱)に成り立ての頃の話である。


***


「…で、お前ら何なんだよ。ポニーテールは知ってるが、こいつら、誰だよ。」

丸メガネと犬を見た。

足を机から下ろし、組んでいる。

ダルそうにジト目で睨んでいるのが、前髪で隠れていても分かる。

「…この人達は貴方の同僚よ。最初に説明したでしょ。…聞いてなかったの?」

「…つまんねーから聞いてない。」

「…失礼ね!それに、貴方、五柱になったのに全然嬉しそうじゃないじゃない。」

「…めんどくせぇよ、んなの。」

「…はぁ。なんで、こんな奴を五柱に置いたのかしら。」

頭を抱える。

頭痛がする。何故、と疑問しか浮かばない。

「…本当に不思議ですねぇ。しかし、これは大死神様が決められた事。文句の言いようがございません。」

「…そうなのよ。」

そう、そうなのだ。上司に言われたら、部下は何も言えないのである。

「…別に良くね?仕事が出来たら。」

「…良くないのよ!チームワークに欠けるわ。」

「そうか?」

「そうよ!」

犬の頭の足らなさにまた、頭が痛くなる。

どうしてこう、私の周りには変人しかいないのかしら。

…仕事。

ハッとツンデは思い出す。

確か、今日は何時もより死人が多かったはずだ。

警備担当地区の見回りに、会合もある。

…部下に仕事も振らないと。

五柱は、死神界のまとめ役であるため、その分、仕事も多い。

なるための昇格試験も難しく、何より大死神様の同意を貰うのが難しい。

詳しく仕事内容を言うと、大体こうである。

五柱の一人一人に、警備担当地区があり、広範囲な上、部下を取りまとめなければならない。

半年に一度、会合をし、情報提供や今後の方針を考える。

上司の立場として、特権もあり、多少の出過ぎた真似は許される。

後は、仕事服は統一の物ではなく、各個人の服を着れる、などがある。

統一の物は、黒のワンピースに、フードが付いた服だ。

言わば、ゴールドの着ている服である。

ツンデは、時計を見た。

お昼を回っている。

「…いけないっ。私、行ってくるわ。」

フワンッ

黒い煙のようなモノを巻き、その場に消えた。

仕事に行ったようだ。

「…ツンデ、行っちまった。…さて、俺も行ってくるぜ?可愛い子…違う、死人がいるし。」

「…可愛い子…と、聞こえましたが?」

「…違うぜーメガネッ。」

そう言い、ツンデと同じように、消えた。

「…誰もいなくなってしまいましたね、ゴール…え?」

隣を見ると、ゴールドもいなくなっていた。

「…え!?ゴールド?これから仕事…。どこいっちゃったんですか!?」

本当に、誰もいなくなった。

呆然としながら、丸メガネは辺りを見渡した。


***


「…ふ〜…何とか逃げられたな。」

ゴールドは安堵のため息を吐いた。

丸メガネが、ゴールドがいなくなった事に慌てふためく頃、ゴールドはビルから出て、外に出ていた。

適当に目的もなく、ブラブラと町を歩く。

「…五柱なんて、勝手にさせやがって。仕事仕事で地獄かっての。ようやく遊べる。」

要するに、仕事をサボっている。初日で。

こうは言っても、ゴールドは一応試験に合格した身だ。

知性と運動能力は人並み以上にある。

本人は、五柱の方が楽だと思い、なった結果、まさかもっと辛くなるとは思いもしなかっただろう。

全ては、あの時名前を付けたアイツが悪い、とケッと悪態を付く。

最悪な事に、一番仕事人として面倒くさそうな"丸メガネ"とか言う奴が残ってしまった。

初日であった、ツンデもなかなかに面倒臭いが。

気分屋の自分と合わない、と思うゴールドだ。

さて、これからどうしようか、とゴールドが考え事をしていると。

ドンッッ

誰かとぶつかった。

「…おい、危ねーじゃねーか。」

少し、いや、マジギレしていた。

ガラの悪い、どこかのヤンキーと化している。

「…ごめん、なさい…でも…貴方も…悪いんじゃ…ない…かしら…。」

「…あ?」

(…何言ってるんだ、こいつ。)

言葉の意味が分からない、の"何言ってるんだ"ではなく、聞き取れないの"何言ってるんだ"である。

「…だから…貴方も…謝り…なさい…ゴールド…」

「…いや、謝らねーし。そもそもなんで名前知って…」

「はーい、ストップです。ようやく見つけましたよ、ゴールド。…まさか、貴方達二人が出会うと思っていませんでしたが…。まぁ、都合が良いですけど。」

ブツブツとゴールドに分からない独り言を呟く。

「何言ってるんだ、こいつ。」

「…こいつとは口聞きが悪いですね。次回から訂正してくださいね。…それでは、今から仕事の話を。」

そう言うと、スッと目を細める。

真面目な顔つきが、より真面目になった。

パチンッと指を鳴らす。

フッ

気がついた時には、ゴールド達はもう、ビルに戻っていた。

逃げる前の、会議室だ。

「…チッ。」

「…舌打ちしても、現状は何も変わりませんよ、ゴールド。」

「…何でも…良い…早く…説明を…して…。」

「…それではまず、自己紹介から。私の事はお二方ご存知だと思いますので、省かせて頂きます。」

「…ワタシ、コノヒトシラナイ。」

ゴールドが知らないフリをする。

知らないフリをして、仕事放棄するつもりだ。

丸メガネが無言で威圧をかける。

「…あー思い出したーあの時のウザイメガネー。」

今度は棒読みで、思い出したと言う。

「…次それを言ったら、五柱の特権ですり潰しますから。」

さすがのゴールドも、黙った。

話を続ける。

「…こちらの失礼な人が、"イタズラ好きのゴールド"。通称ゴールドです。性格はこんなのですが、仕事は出来る人なので、ご安心を。…そして、こちらは"おとぎ話の不思議さん通称不思議です。話すのがゆっくりですが、優秀です。」

「…お前も、結構言うじゃねぇか。」

「…貴方も結構言ったので、フェアですよ。」

「…で…私達は…何を…すれば…良い…。やるなら…早く…して…。」

「…分かりました。こちらも、早く自分の仕事を終わらせたいので。」

チラリ、とゴールドを見る。

面倒臭い事をするな、と顔が物語っている。

「…へいへい。」

「…はい、です。それとはいは一回です。」

「…はい、はい。」

「……。まぁ、置いといて。お二人にして頂きたい仕事とはーー」

「…?」

「…なんだ?」

「…お二人で任務を遂行して欲しいのです。」

「「……。」」

しばらく呆気に取られた後、お互いの顔を見、再び丸メガネを見る。

二人がそれはとてもとても、嫌な顔をした。


***


紅月の死神


「…なんで、お前なんかと任務に。」

「…それは…私も…よ…ゴールド…。」

二人は、丸メガネに言われ、(若干圧をかけ)渋々、本当に渋々、任務を共にする事になった。

そして、今いる所は死神界でも、最も誰も近寄らないと言われている、"死神の巣"と言う所だ。

本当は、人間界のとある廃工場とかだったのだが、ゴールドの口の悪さと、二人の仲の悪さで、特別手当として、死神界で一番恐れられる所になってしまった。

半分以上、ゴールドの性である。

裁判で言ったら、不思議が絶対勝つくらいだ。

「…ッたく。あのクソ丸メガネ野郎に腹立つから、早く終わらせるか。」

さっきよりも、あだ名が酷い。

「…そう…ね…やる事を…復唱…しましょう…。」

そう言うと、不思議はファイルを取り出す。

そして、読み上げた。

「…今回は…ここに…居ると…される…"紅月の死神"…を…倒す…こと…紅月の…死神はーー」

"紅月の死神"とは、死神界にあるとされた伝説の死神である。

いつ生まれたかは誰も知らず、分かっているのは、何百年も前からずっといると言う事である。

その死神は、ずっと"死神の巣"におり、そこを自分の領地としているのだとか。

何でも、"紅月の一族"と言うものらしく、その人達は、全員目が紅いらしい。

そして、その一族は一つだけ、何でも願いを叶えて貰えるらしく、それを悪用して厄介事を犯す奴らもいる事から、"紅月の死神"は、敵として、死神界の厄介者として見られている。

それでも、あそこまで恐ろしがられているのは、昔(それも100年前)に、一人の"紅月の死神"が死神界を半分ぶっ壊したからである。

他の死神や、大死神様まで出向いて、何とか半分だけで済んだ。

それが、今ゴールド達のいる"死神の巣"に封じ込められている奴…ではなく、その子孫である。

ぶっ壊した奴は、封印ではなく、殺した。

その怨念もあるのか、子孫はこちらに恨み辛みあるだろう。

と、まぁこんな感じで、ヤバい奴を退治しに行く、と言う事だ。

仕事は封印だが、本命は退治である。

出来たら、退治が良いなぁ、とどこかのお偉いさんが言ったらしい。

ゴールド達に取って死活問題であり、迷惑だ。

これで、"紅月の死神"の説明は終わり。

この話で、"死神の巣"の説明が遅れたが、簡単に言えば、"紅月の死神"の封印地である。

"紅月の死神"のアジトであった場所が、負けた事で、封印地となったわけだ。

外見は古びたヨーロッパの城のようなもの。

その中に、頑丈な死神を封印出来る特殊な魔力の掛かった鎖で、グルグル巻きにされた"紅月の死神"がいる。

天井の4隅から鎖が伸び、吊るされている、とも言える。

今回は、それの封印を解き、あわよくば倒す。

無理ならもう一度新しく封印し、より頑丈にする、と言う仕事だ。

大変骨の折れる仕事である。

「…で?まずはどーする。計画を練らねぇといけねぇだろ?」

「…当たり…前…そんな…こと…分かって…る…。…早く…計画を…」

「…チッ。いちいち気に触る奴だな。」

自分と気の合わないリストに、不思議が入った。

ゴールドの脳内のブラックリストである。

そんな事より、と煩悩を滅し、仕事にスイッチを入れる。

そんな真面目モードにはなってないが。

私的考え事を滅しただけである。

「…えーと、取り敢えず入るか。現状を知らねぇと何も出来ねぇ。」

「…そう…ね…。」

コクリ、と不思議も頷く。

了解のようだ。

いかにも古びた、と言う色褪せた木製のドアを開けーー

「…開かねぇッ!」

「…。」

開かなかった。

それはそうである。一応、封印地だ。

扉が頑丈でも、おかしくない。

「…チッ。鍵開けとけよ。」

本日三回目の舌打ち。

「…そこまで…思われて…ない…?」

「…何でも良いけど。…これ、ぶっ蹴って開けても良いよな?」

「…任務…完了の…ため…」

それを、了承と取り、ゴールドは数歩後ろに下がる。

助走をつけ、

ドガンッ

思い切り、扉を蹴った。

すると、扉は後ろに倒れ、実質ドアは開いた。

「…はァ、ッたく。余計な力使わせんじゃねーよ。」

八つ当たりするように、ドアをドシドシ踏み潰しながら歩く。

「…ゆっくり…入って…敵…バレる…」

「…大丈夫だろーて、うわ。」

やばいものを見たと言うような声が中で聞こえた。

その声に、不思議も急いで入る。

「…わ、すごい…これが…"紅月の…死神"…」

二人を待ち構えていたのは、巨大な死神だった。

その姿は、魔人と言ってもよく、身長はゴールド達の倍はある。

髪は燃え盛るように紅く、目は閉じているので分からないが、きっと紅いだろう。

そして、ファイルに書いてあったように、鎖でグルグル巻きにされ、封印されていた。

「…これをわざわざ取んのかよ。」

「…眠れる…森の…美女…ね。」

「…つーか、眠れる城のゴジラだけどな。」

ツッコミを素早く入れるゴールド。

そうしなければ、ならなかった。

でないと、緊張と生え上がる恐怖に押し潰されそうだった。

いくらゴールドとは言え、これほどの巨大生物…死神を見れば、少しは怖気付く。

相手は眠っているのに、"強い"と言うのが丸分かりだった。

「…問題は、これをどーすっかってところだ。」

ゴールドは死神に近づき、鎖を指さす。

「…そう、ね…それを…取らない…と、元も…子も…ない…」

不思議も頷く。

「…とりま、鎌でぶった切っとくか?」

「…その…前に…計画を…」

「…あー…。」

二人は、計画を練り始めた。


***


「…よし、始めるか。」

準備運動をしながら、ゴールドが声をかける。

「…始め…る…お願い…だから…計画…通り…に…。」

「…わーってるって。」

ヒラヒラ手を振り、面倒くさそうに死神に近づく。

「…行くぞ。」

ゴールドが手を下ろす。

それと同時に、鎌が現れた。

それをグッと握りしめる。

大きく足を踏ん張った。

跳躍。

勢い良く飛び、死神の頭と同じ高さになる。

ゴールドは、大きく鎌を振り下ろした。

目に見えない、物凄いスピードで四方八方に。

キンッ…ーー!!

鎌が鎖に当たる音がする。

同時に、死神を繋いでいた鎖全てが切れた。

ズズン

死神が床に座るようにして落ち、砂ぼこりが舞い、瓦礫が落ちる。

「…何百年の時と経った今、我、目覚ます。」

砂ぼこりが薄れ、徐々に死神の姿があらわになる。

ゆっくりと立ち上がり、言い放つ。

ゴールド達はただ、その姿を呆然と見るしか無かった。

「…解き放った者に、絶望を。待ち受ける者に恐死を。腐った世界に、永遠の不幸を。」

ニヤリ、と"紅月の死神"は嗤った。


***


熟練された奴だけが強いわけじゃない


「…腐った世界に、永遠の不幸を。」

ニヤリ、と嗤った。

その瞬間。

ズガンッ!!

「…うぉっ!?」

間一髪で、ゴールドは攻撃を避ける。

不思議も避けたようだ。

「…火の魔法かよ…。……!!もしかして、これ"願い"で叶えたやつか!!?」

「そうだ。我一族は一つだけ、何でも願いを叶えられるのだ。…その辺の事は知っているようだが。我は"火を操れる魔法"を貰った。」

どうだ、と言わんばかりに、自信満々に見てくる。

その言葉に、ゴールドが思った事はただ一つ。

「…コイツ、馬鹿だ。」

なんでかと言うと、せっかく何でも叶えられるのにそんな火の魔法だけと言うショボイのを叶えたからである。

少し考えれば、色々チートな魔法を叶えられただろうに。

「…なんだと。」

そして、その呟きが聞こえたらしく、死神が切れた。

「…そして、今のは魔法の一つ、"火玉"だ。当たれば大怪我間違いなしだ。」

怒りをぶつけてくる。

「…クソッ。めんどくせぇ魔法だな。」

「…ハハハハハッ。お前はそこで消滅するのを待っていろ。…ほら、次の攻撃だ。」

すると、すぐさま攻撃してくる。

先程の"火玉"に、"火矢"が飛んでくる。

その名の通り、矢のようにして飛んでくる。

死神が打っているのではなく、自動的にこちらに飛んでくるような形だ。

ゴールドは様々な攻撃で攻撃態勢に入れず、来る攻撃を避ける受け身状態で、いっぱいいっぱいだ。

(…このままだと相手に狙われっぱなしだ。それに、あの攻撃。当たっちまったら本当に消滅しかねねぇ。)

次々と襲いかかる攻撃に、命の危険を感じる。

何百年も前から生きているためか、熟練されている。

(…やっぱコイツは死神じゃなくて魔人だな。)

それをヒシヒシと感じるゴールド。

考え事をしながらも、ヒョイヒョイッと避ける。

が、それも長くは続かない。

「…アハハッ弱い。弱いな。二百年前ほどの死神の方がよっぽど強かった。…だから、油断した先代は殺されたのだ。」

ギリギリと歯を軋む音を立てる。

大きいからか、城内に響く。

思わず、ゴールドは耳を抑えた。

「…うるっせぇ…!」

「…これはどうだ。お前の体力も大分消耗されるだろう。」

ズガンッ

今までの"火玉"より倍はある"大火玉"が飛んでくる。

「…えぇ…マジかよ…」

目の前に迫る大火玉に、ゴールドは苦笑いを浮かべた。

ゴールドに大火玉が当たった死神は、ニヤニヤ嗤っていた。

勝利を確信していた。

「…あれを避けた者は何百年として見た事がない。ここが最後の墓場となるーー」

「…ならねーよ。」

話を遮ったのは、ゴールドだった。

瓦礫を横に吹っ飛ばし、砂ぼこりの中から出てくる。

その姿は大丈夫ーーとは言い難い姿だった。

頭から血を流し、服は所々破けている。

破けた袖から見える腕は、擦り傷や切り傷が腕中に出来ている。

何とか、立ち上がれている、と言う様子だ。

「…さすがに避けきれなかったが、死ぬとは思ってねーぞ。こんくらい、受け止められねーで五柱になれてねーし。」

ペッと血を吐き出し、話す。

「…そんな馬鹿な…!…でも、お前の厄介なその、馬鹿みたいな運動能力と力は低減できたな。」

「…そうかァ?私はそうは思ってねーが。」

嘘である。

細かく言うと、半分嘘である。

やられた所が痛いし、骨も肋骨あたりが数カ所、折れた。

血が流れたせいか、少し貧血気味だ。

万全の体勢とは言えない。

(…思ったよりやべぇな。早くこっちも攻撃入れねぇと。)

これ以上、受け身ばかりだと、完全にあの世行きだ。

それにしても、とゴールドは思った。

「…アイツ、何やってるんだ…?」

アイツとは、不思議のことである。

ゴールドは攻撃を頼まれた以外、何も聞かされていない。

自分はできる事を準備すると言って、何もしてこない。

「…これで、しょうもなかったらマジでぶっ飛ばす。」

最後の力を振り絞り、死神の元に飛んだ。

鎌を取り出す。

それを思い切り、右に振るった。

ザシュッ

歯切れの良い音を立て、死神に当たる。

が、胸辺りに当たり、傷は浅い。

致命傷には至らなかった。

(…チッ頭部を狙ったが…そんなに上手く行くわけねぇか。)

傷は浅けれど、付ける事はできた。

勝利への第一歩である。

その後も、火玉や、火矢、大火玉を投げられたが、回避しつつ、自分も攻撃を返した。

その度に傷つき、傷つかせた。

全身ボロボロだが、相手も傷ついている。

(…後、少し…!!)

もう一押し。

「…待たせた…わね…準備…整った……」

「…おせーよ!!」

いい所で来るなぁ!と、イライラを鎌に乗せて死神にぶつける。

「…ガハハッ。今一人、敵が増えたとて、相手にならんわ。」

「…そうか?お前もそろそろ限界だろ。この私が結構切り刻んでやったからな。」

ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。

「…う、うるさいッ小童が。何十年としか、生きとらん、ただの死神がッ。」

焦りを見せる。

大方合っているだろう。

「…あ?ただの死神、か。今代の紅月の死神は舐めた口を聞くんだな。」

ピリッとした空気に包まれる。

ゴールドの雰囲気が変わった。

(…な、なんだ…?この娘。急に雰囲気が…)

急に雰囲気の変わったゴールドに、死神はたじろぐ。

「…これを見ても分かんねぇか?雑魚。」

「…何をッ!………!!??」

ゴールドは、前髪をかきあげる。

ハッキリと目が見える。

それは、"紅月の死神"と同じ、紅い目をしていた。

「……そ、れ、…。」

不思議も驚く。

「…お前、長年と生きてねぇと弱い、と思ってるんだろうが、何か勘違いしてんじゃねぇか?」

「…な、にが。」

「…私が教えてやる。強い奴ってのはな、熟練された奴だけが強いわけじゃねぇってな。」


***


形勢逆転


「…お前ッその目を持っていながら、何故そちらの味方をするッ!その目はッ特別なものなのだぞ!」

「…あーあーどいつもこいつもうるせぇな。別に何でも良いだろ。お前らのそう言う、特別だとか自分達は高貴だとか、それがめんどくせぇんだよ。」

まぁ、知ったのは薄々だったけどな、と笑う。

「…薄々…って…確信…は…なかった…の…?」

段々状況が掴めてきたのか、いつも通り落ち着いた声で、不思議が尋ねた。

「…あぁ。目の色なんてそもそも気にしてなかったし、今日までこの、紅月の死神ってのも知らなかったしな。んで、今日見て聞いて、もしかしてって思っただけだよ。…絶対確信になんてしたくなかったけど。」

ツラツラと思った事を述べる。

「…でも…どうして…ゴールド…は…紅月の…死神と関係…が…あった…の…?」

「…それだよ、それ。私は全くコイツらと関係なかったし。何でなったか、意味不明。」

不思議の疑問に、ゴールドも納得する。

自分も、疑問に思った事だ。

「…それは我らの中から、誰かが"名付け"したからだろッ。そんなのも知らないで…一体誰がコイツを仲間にしたんだッ。」

激高している。

「…"名付け"…?」

ゴールドがハッとしたように目を見開く。

ふと、思った事が頭をよぎる。

(…まさか…アイツが…?)

いや、そんなまさか。

アイツは人間だ。

死神と言う事を隠していても、さすがに同族だ。

わかるはず。

それにアイツは正真正銘の人間だ。

確信している。

何故なら、アイツは死神の知らない事を知っているからだ。

死神は役割を受けたその人個人個人を詳しく調べる。

だから、人間界を人間より、知っている事はまず、ない。

アイツは、詳しく知っていた。

私の知らない事を、楽しそうに語っていた。

あの場所で。

だから…そんなはずはない。

絶対に。

半信半疑になりつつ、死神に尋ねる。

確信が欲しかった。

アイツじゃない、と言う確信が。

「…その"名付け"ってのは、直接相手に名付けなくても、間接的でも機能するのか?」

名付けは、紅月の死神にしたい者に、紅月の死神が名前を付ける事により、晴れて仲間となるらしい。

それが…それが正しいのならば、アイツは…

あの日あの時あの場所で。

彼がした事を思い返せば、いくつも当てはまる事がある。

アイツは…

「…あぁできる。だが、名付けを仲介して行う奴も、紅月の死神じゃなきゃダメだ。…見てみるか?」

お前の、名付け親を。と呟く。

「…は、」

以外にすんなりと話す。

それで私が仲間になるとでも思っているのか、それとも別の狙いがあるのかないのか。

「…なるほどな、アイツか。…我の上の者だ。ソイツが、お前に目をつけたらしい。だがお前の性格ゆえ、真っ向勝負では断られると思ったらしく、お前の…一緒にいた人間に頼んだらしい。そんで…人間は悩んだ末、お前を紅月の死神にする事を決めた。それが、お前に取って最善の策、一番幸せになれると思ったんだと。」

一呼吸置き、また話し始める。

「…お前、ずっと一人だったらしいな。野良死神。人間にとって、精一杯考えた結果だ。…だが、お前を名付けするには人間も紅月の死神にならなければならない。人間はそれも覚悟してお前を紅月の死神にした。…そして、人間は、願いを"人間に戻す"とした。最後は人間のまま死にたかったんだと。」

話終わり、ゴールドを見る。

先程まで、血で記憶を読み取ったらしい。

仲間の事は、血で読み取れるらしく、今回は上の者の記憶を読んだと言う。

「…そう、か。」

一言。

それだけしか出なかった。

不思議も黙っている。

「…さて、小話はそこまでだ。我は早く、再び世界を焼かなければ。」

戦いを諦めた訳では無いらしい。

再び、戦闘の空気に戻る。

ゴールドも攻撃体勢に入る。

だが、その隣で、不思議は誰よりも落ち着いていた。

「…もう…別に…戦わなくて…良い…決着…は…着いた…」

「…は?」

「…なんだとッ!」

「…ゴールド…何か…私を…罵倒する…言葉を…言って…」

「…は?なんで??」

「…力を…出すため…怒り…最適…」

「…おう。」

何故か不思議にそう言われ、戸惑いながらもゴールドは罵倒する。

「…バーカ、本好きの阿呆鳥、話すの遅いし、声ちっせぇんだよクソが。…言われると、あんま思いつかねぇな。…あ、」

そう言ったものの、何か思いついた様子のゴールド。

「…貧乳、女装男子」

ピクッ

さっきまで反応しなかった不思議が反応した。

これ程かと言うほどに。

「…あ、これ、言っちゃいけねぇやつ?」

「…あんた…マジで…許さない…」

どうやら地雷を踏み抜いたらしい。

「…いや、お前が言ったんじゃん。」

「…許さ…ない…」

「えー…」

「…今、この時、邪悪なモノを封じ込める時。我、目覚ましからん。ここに封印する事を望ましけり。」

今まで手に持っていた本を開き、饒舌な口調で話す。

普段の不思議とは思えない、滑らかな口調だった。

本は蒼く光り輝き、光を放つ。

本は死神に向けられ、光を浴びる。

「…ァァァァァァァァッ!!」

絶叫を上げ、死神は消えた。

正しく言うと、本の中に吸い込まれた。

不思議は、パタンと本を閉じると、鎖を取り出した。

現れた、と言ってもいい。

いつも、鎌を取り出す時と同じように。

それが本に自動的に巻きついていく。

もう、光は消えていた。

なんとも呆気ない終わり方だった。

「…よしっ終わったぁぁ!仕事完了!早速遊ぶーー」

ガッツポーズをする。

「…待ちな…さい…ゴールド…」

がっしり肩を掴まれる。

「…あ。」

「…絶対に…許さない…」

「…うわっちょ、ごめんてッ。うわぁぁぁ」

不思議が鎌を取り出す。

死の切り刻みデスゲームが始まった。

ゴールドの悲鳴が城に響いた。


***


二人の結末


「…で?なんでこんな事になったのかしら。」

怒気を孕んだ声が二人に降りかかる。

「…それは不思議がーー」

「…紅月の…死神を倒した…から…当たり前…の結果…多少…の…犠牲…必要…」

ゴールドの言葉を遮り、不思議が弁明する。

「…だからってねぇ。」

ツンデは後ろにある窓を見る。

そこには、日常にはあるはずのない空間が広がっていた。

半壊された国。

それが映っていた。

紅月の死神を倒した功績ではない。

"不思議"がほとんど半壊したのである。

ゴールドが怒らせた事により。

私的理由で国を壊すのは言語道断だ。

最悪消滅刑(死刑)になりかねない。

だから、不思議はあえて本当の事を言わず、功績として繕ったのだ。

誰も不思議とは思わないだろう。

何故なら、邪悪な死神"紅月の死神"を倒したのだから。

噂が流れていたら、国民から称えられていだろう。

国民が混乱しないために、事故などとして片付けられている。

だが、ゴールド達が怒られない理由は勿論なく、大死神様に怒られた上で、今ツンデに怒られている。

会議室で、ツンデは仁王立ち。

ゴールドと不思議は正座させられている。

「…もう良くね?二人は頑張ったんだしよ。それに初日でアレ相手だぜ?可哀想な身だろ。」

犬が助け舟を出す。

友情に熱い男である。

「…だからって甘やかしたら…」

責任感が強く、真面目なツンデは許せないらしい。

自分にも責任を感じているくらいだ。

「まぁまぁ。今回はそれぐらいで良いでしょう。結果、敵を倒せたなら万々歳です。」

「…そうね。」

一番五柱の古株の丸メガネに言われ、さすがのツンデも折れたらしい。

「…そんな事より、パーティーしようぜ!倒したのと、正式な五柱合格記念で!」

犬がやる気満々に提案する。

そう、ゴールド達はまだ、合格していなかった。

本当に採用していいか、最終試験と言ったところだ。

本人達には伝えず、どう行動に出るか、敵を倒せるか、などが見られる。

「そうね。シャンパンを取ってくるわ。」

「…では、私はご飯を。」

「俺!ピザ食べたい!」

ワイワイと一気に賑やかになる。

その様子を見ながら、ゴールドはドアに近づいた。

「…ちょっと出かけてくるわ。」

一言。

そう言い残し、部屋を後にした。


***


カツカツカツ

ブーツの音が静かな空間に響く。

誰も通らない廊下を、ゴールドは歩いていた。

金属のような物でできた、隔離施設のような、近未来的な廊下。

そこは地下施設の中の物だった。

ゴールドは迷うことなく、まっすぐ歩き、ある所で止まる。

そして暗証番号を入力し、ドアが開く。

「…よぉ。」

親しく挨拶をし、入る。

そこは薄暗く、あまり広いとは言えない殺風景な空間が広がっていた。

その中の真ん中に一つ。

ポツンと1冊の本が机に置かれている。

「……お前、どうしてここに。」

驚いた、困惑したような声が、"本"から聞こえた。

「…え?んなの簡単だよ。…ちょっと警備員を絞めただけ。」

ちょっとどころじゃない気がしたが、本…元死神が聞きたいのはそうじゃない。

「…我が話せるのは何となく分かる。お前が同族だからな。だが、ここへ何しに来た?…まだ、我に聞きたい事があるのか。」

「…んや、そうじゃねぇ。ちょっと気になった事があるから伝えに来ただけだ。」

「…なんだ?」

「…アイツを刺したの…おめぇの上の奴だろ?」

「……!!」

図星のようだ。

「…やっぱりな。」

フッと物憂げな顔をする。

一瞬だけだったが。

「…我を殺すつもりか?」

「んな物騒なつもりはねぇよ。ただ伝えたかっただけだ。」

本当にそのようで、危害を加えるような気配はしなかった。

普通の世間話をする、そんな感じで。

「…じゃ、用は済んだし。帰るわ。」

「待て。」

出ていこうとしたゴールドを呼び止める。

「…なんだよ。」

面倒くさそうに睨んでくる。

「孤独な者よ、君は想像者の道を行く。」

ハッとゴールドは笑った。

「…ニーチェの言葉か。」

だが、と続ける。

「…お前はまた間違ったな。」

「…何?」

「…私は孤独じゃねぇよ。不本意だが、うるせぇ奴らがいるんでね。」

その顔は、どこか楽しそうだった。

「…そうか。」

呆気に取られた顔をしながら、死神は呟いた。

「…変わったな、お前。もっと…気にしない奴だと思ったが。」

ゴールドは答えず、部屋を出る。

扉を閉める前、手を止め、呟いた。

「…変化なんて求めちゃねぇよ。周りのせいだ。」

そう言い、今度こそ扉を閉めた。

カツカツカツ

静かに、足音だけが、響いた。


***


「…いっちゃん…?…何…ボーと…して…るの…?」

その声で、我に返る。

現在。

死神界に現れた敵を排除中である。

「…あ、ごめん。考え事してたわ。」

「…止めて…よ…今…戦闘…中…」

そう言いながら、鎌で次々と敵を切っていく。

「…お前との共闘も、偶には良いな。」

「…何…言ってる…の…」

呆れたような声。

「…あん時の不思議、恐かったぜ?」

ニヤリ、といたずらっぽく笑う。

あの時から何週間かは、不思議に一歩距離を置いていたゴールドである。

「…今更…いつの…話…よ…」

満更でもないと言うようだ。

二人は今日も魂を狩り、敵を倒す。

喧嘩越しではなく、少し距離の縮んだ二人で。

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