第24話

18話:遊園地に恋人繋ぎ


「…ねぇ、まほろ。来週の土曜日、遊園地行かない?」

「…行くー!」

…それが、この前言われたコト。

それでもう、色々考えて、あーだこーだしているうちに、当日を迎えてしまった。

どうしようー。

今、遊園地の入口近くにあるベンチに座って…はおらず、隣に立って直人君が来るのを待っている。

胸が熱い。バクバクするし、色々落ち着かない。

メイクは変じゃないかな。服にシワとか汚れとか付いてないかな。

鏡を見て、確かめる。

服は目視で確認した。変じゃないとは思うけど。

今日の服装は、白のブラウスに水色の小花柄のロングスカート。

夏も終わり始めて、秋に近いから薄手のカーディガンも羽織って。肌寒いしね。

それから靴はヒールではなく、スニーカーを履いてきた。

遊園地だし、結構歩くと思うから。

早く来ないかな、直人君。

ソワソワ、フワフワ。

鞄を両手で持ちながら、今日は何をしようかなと考えていると、

「…お待たせー!ごめんッ待たせちゃった。」

「…ッ。」

来ちゃった 来ちゃった 来ちゃった

どうしよう。

改めて、不安になる。

大丈夫かな、と心の中で思いながら取り敢えず返事をした。

「…大丈夫!全然待ってないよ!…それより、せっかく来たんだから早く行こ!」

時間は有限だよー、と笑う。

「そうだね。…はい。」

そう言うと、直人君は私に手を差し伸べた。

「…手、繋ご。時間は"有限"だろ?」

「…ッ!!」

私がさっき言った言葉。ずるい。

「…ね、ねぇ。恋人繋ぎでも良いでしょ…?…ね?」

上目づかいで直人君を見る。

そのまま指を絡めた。

手を繋ぐなら、恋人繋ぎが良い。

ずっと、小さい頃から憧れてたんだもん。

やらないわけないよね!

「…ッうん。」

直人君が目を逸らしてる。

少し…顔も赤い。…照れてる。

でも、それは多分、私もおんなじだ。

2人はゆっくり歩き出した。


「…それで、どこ行こうか。」

直人君は、近くの案内板で貰ったパンフレットを見ている。

「…うーん。まず最初はやっぱり…」

私はあるところを指さした。

「…ジェットコースターでしょッ!!」

「…えぇ!?」

驚いたように直人君が私を見てる。

なんか私、変な事言ったかな?

ジェットコースターくらいしか言ってないけど。

…もしかして、1番最初にジェットコースターはおかしかったの!?

「…な、直人君。1番最初にジェットコースターは可笑しいの?」

カタカタと小刻みに震えながら見る。

グシャリとパンフレットが少し、折れた。

「…え?あ、あぁ!!ごめん!まほろは可笑しくないよ。ただね、俺は最初からあんまり乗らなかったから、純粋に驚いただけ。」

「…な、なーんだ。そう言う事か。」

直人君の慌てふためく説明で、理解する。

良かった。

変な子と思われたくないもん。

「…本当に大丈夫だからね。行こうか。」

念を押すように直人君は言うと、再び手を握った。…今度は、自分から恋人繋ぎで。

あー!何もする前から楽しい!

「…ジェットコースターと言っても沢山あるね。」

マップを見ながら、呟く。

さっきは気づかなかったけれど、今見た所だけでも二、三個はある。

「…どれから行こうか。…あ、これとかどう?地獄門コースターだって。」

直人君が指さしたのは、ここから近い一つのジェットコースター。

名前からしてとても危険そうだけど。

…直人君、こう言うの平気だったんだ。

また、新しい事を知れたな。

「…これ、行きたい!!」

それと同時に私達は、走っていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…ひ、人多かったねー。」

「…う、うん。」

あれから、地獄門コースターの列に並んだけど、やっぱり人気のアトラクションみたいで、結構人が並んでいたの。

朝から行ったのに、凄いよね。

さすが、遊園地。

今から乗るこのジェットコースターも、凄い。

全体が赤色で、とっても高いし、長い。

炎とかの絵が所々に描かれてあるから、ホントに地獄を演出してるみたい。

アトラクションの入り口には鬼のパネルもあったんだよ。

「…次のお客様、どうぞー。」

店員さんの誘導で進む。

「…ようやく乗れるー!楽しみッ!!」

「…なんか、まほろテンション高くなってるね。」

「…だって直人君と乗れるのが楽しみなんだもん!」

「…!良かった。」

直人君も嬉しそうに微笑む。

やっぱり楽しみだよね!ジェットコースター!

「…せっかくだし、1番前乗ろ!」

「えっ、」

「…え、あ、駄目だった…?」

…前、ヤだったかな。

「…ごめん、なんでもないよ。乗ろう!」

…空元気っぽいのは気のせいかな?

「…うん!」

気のせい、だよね!まずは楽しまないと!


***


「…キャーー!」

「…うわぁぁぁ!!ーー………」

悲鳴を上げる。

めちゃくちゃ楽しいーー!!

この、最初にカタカタと上がっていく緊張感。

その後すぐ落ちていくスリラー。 最高。

…でもね、さっきから悲鳴を上げていた直人君の声が聞こえない気がするんだけど、気のせいだよね?

楽しすぎて、このくらいじゃ怖くないぜって言うことで上がらないんだよね?

まさか…

その答えに気づいた頃には、もう減速していて、終点していた。

「…楽しかった!」

「…う、うん。楽しかったね。」

感想を言いながらも、直人君の反応を確かめる。

…やっぱり。気を張ってる。空元気。

無理、してたんだ。

「…ちょっと座ろ。」

横にあるベンチに座る。

直人君が座った瞬間、私は単刀直入に聞いた。

「…直人君、もう誤魔化さないで。」

「…なんの事。」

「…しらばっくれないでよ。本当はさ、苦手なんでしょ?ジェットコースター。」

「…そんな事…」

「…ッ。」

誤魔化す気、なんだ。

「…いい加減、そんな誤魔化し止めてよ!…直人君が言ってくれたら私、止めたりとか…工夫とか、したのに。」

行き交う人々が見ているのを気にせず、大声で自分の気持ちを伝えた。

「…まほろが、そう言うと思ったから言わなかったんだよ。…我慢、して欲しくなかったから。」

「…ッ!馬鹿言わないでよ。それは私だって同じだよ!…結局、直人君が我慢しちゃったらおんなじなんだよ?…私が、ただ楽しんでるように思わないでッ!…ッ。」

次言おうとした言葉に喉が詰まる。

けれど、それは口から漏れた。

「…ッ直人君なんか、嫌い!」

私はそのまま振り返らず、走った。

「…まほろッ…!」

直人君の叫ぶ声が聞こえたけど、それも無視してただ走った。

頭の中は空っぽだった。

真っ白で、何も考えられなかった。

"喧嘩した"

これだけが、頭をグルグル回って、離れなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

喧嘩、しちゃった。

直人君と喧嘩なんて、付き合って初めてだ。

なんだか感情が抑えきれなかった。

今、大広場のベンチで反省中。

走って走って、走りまくって、ベンチに座って呼吸を整えると、だんだん頭が冷えてきた。

怒ったのなんて、何時ぶりだろう。

数年前、私がまだ小さかった頃、お母さんはお父さんに暴力を受けていた。

言わゆる、DV。

でも、昔の私はそんな事知るはずもなく、ただただ泣き叫んで謝るお母さんを見ていた。

お父さんは言った。

『…コイツが好きだからやってるんだ。』と。

お母さんは言った。

『…これもあの人の愛、愛情なのよ。』と。

私は思った。

『…それが愛なら、どうしてそんな哀しい顔をしてるの?』と。

そんなある日。事件は起こった。

いつも通り、お父さんがお母さんに暴力を奮っていた。

けれど、電話が鳴って、お父さんは出た。

そしてお母さんを見て、暴力を止めた。

そして、言った。

『…ここに行け。稼いで来い。』

お母さんは泣いてお父さんに懇願してたけれど、お父さんは聞く耳を持たず、無理矢理出ていかせようとした。

今思えば多分、キャバクラとかクラブとか、水商売のお店だったと思う。

ブチンッ

私の中で、何かが切れた。

今のは暴力じゃない。居なくならせようと、してるだけ。

それは…お父さんにとって、"愛"なの?

違うよね?これは…2人にとっての"愛"じゃない。

あの時、気づいたら体が動いていて、家がめちゃくちゃになって、その次には誰もいなくなっていた。

あれから、親戚に引き取られて、何不自由なく育った。

でも、あの時出来た痣は未だに残ってる。

ご近所さんが異変に気がついて、警察を呼んでいなかったら、今頃土の中だった。

私にとって、2人の"愛"は最後まで分からなかった。

だから…直人君と付き合った時、思ったの。

"愛"は…"恋"とはなんなのか、見つける、と。

***

…ちゃんと、謝らないと。

ごめん、で許されるかな。

いや、そんな事よりも、直人君が考えていた事が頭を駆け巡る。

…直人君も、おんなじ事考えてたんだね。

お互い、心配をかけたくない、我慢をさせたくない、楽しんで欲しい。

そのお互いを思う気持ちが、今回のように喧嘩の原因を生むなんて、思わなかった。

…直人君、今、どうしてるかな。

怒ってるかな。平気かな。…それとも、心配、してくれてるかな。

「…私は、どうしたいの?」

怒りたい?泣きたい?デートを続けたい?…謝りたい?

「…謝って、話したい。」

ポタポタと涙がスカートに染みて、ジワジワ消えていく。

「…良かった。俺もそう、思ってる。」

ハッとして前を向くと、いないはずの人物が立っていた。

「…な、直人、君…?」

「…先ずは、ごめん。今日はまほろに楽しんでほしくて、自分の苦手な事もやってた。…けど、それでまほろを傷つけてたのは盲目だった。本当に、ごめん。」

そうして頭を下げる。

「…そ、んな。直人君、私こそ、ごめんなさい。私だって、直人君に楽しんで欲しくて…でも、自分ばっかり怒って本当に…ただ、2人で楽しみたかったの。」

立ち上がり、謝る。

「「……フッ。」」

お互いに、顔を見合せ、笑った。

何が可笑しかったのか、分からない。

けれど、お互いがお互いを大切にしてるのが分かったから、それで良いかな。

ぐぅぅぅぅ

直人君のお腹が鳴った。

ふふっとまた、笑う。

「…直人君、私お弁当作ってきたんだ。食べて?」

「…もちろん、食べる。」

「…ここで食べようか。ちょうど食べられるよ。」

「そうだね。」

私はレジャーシートを引く。

せっかくだし、こうやって食べたい。

「…直人くーん!そっちの端、持って!」

「こう?」

「うん!」

端と端を持ち、持ち上げて広げる。

黄色とオレンジ色のチェック柄で気に入ってるんだ。

靴を脱いで、座る。

早速、お箸やお皿を並べ、お弁当を取り出した。

袋をシュルシュルと解き、蓋を開ける。

中身はおにぎりや玉子焼き、ウインナーに唐揚げ、サラダなど、一般的なもの。

彩りとか、バランスとか、色々考えて作ったんだよ。

「…さ!まほろ特製の手作り弁当をどうぞ!」

「いただきます!」

そう言って直人君は、唐揚げと玉子焼きを取る。

「…ん!これ、めちゃくちゃ美味しい。」

唐揚げを口に運んだ直人君は、嬉しい感想をくれた。

嬉しいな。早朝から頑張った甲斐があった。

「…えへへ!そりゃそうだよ。直人君のためを思って作ったんだもん♡」

「…んぐっ。」

変な声を出して、少し噎せる直人君。

「…どうしたの?」

「…ちょ、ちょっと可愛さが直撃して。」

「…へっ。」

今度は私も噎せちゃいそうになったよ。

「…ほ、ほら!これも食べて。美味しいよ。」

そう言って、ポテトサラダを取り皿に乗せる。

「…あ、ありがとう。……あ、美味しい!」

「…でしょ?」

お外で、好きな人と食べるご飯は美味しいな。

パクパクと次々にご飯を食べた直人君は、お腹いっぱいと笑った。

綺麗に完食してくれた。嬉しい!

「…この後はどうしようか?」

「うーん。あ、こことかどう?トロッコアドベンチャーだって!ゆっくり進む体験型アトラクションらしいよ!」

「…良いね!それ、行こっか。」

荷物をまとめながら、次のアトラクションを決めた。

***

「…つ、疲れたー!結構遊んだね!」

「…本当。でも、楽しかった。」

「私も!」

あの後、例のトロッコアドベンチャーに乗ったんだけど、水しぶきで全身びちゃびちゃ。

ジェットコースターで乾くと思って乗ったら、乾いたけど、ボサボサになったり。

お化け屋敷が本格的でとっても怖かったり。

売店のチュロスが美味しかったり。

めいいっぱい楽しんでいたら、あっという間に時間が過ぎてて、もう日が暮れそう。

「…最後、どこ行きたい?」

「…俺さ、行きたい所があるんだけど。」

「…どこどこ!?」

直人君が行きたい所…どこだろ?

「…ここ。」

直人君が指さしたのは、観覧車だった。

色とりどりで、大きなのが特徴。

この街で、1番大きな観覧車で有名なんだ。

やっぱり最後にはぴったりだよね!

「…わぁ〜!行きたい!!」

観覧車は、5分くらい歩いてすぐだった。

「…お客様で、最後です。どうぞ景色をお楽しみ下さい!」

店員さんが、ドアを開ける。

ありがとうございます!とお礼を言いながら乗る。

ドアが閉じると、ゆっくりと動き出した。

「…終わりまで、15分くらいだよね。」

「…うん。早く感じそう。」

「ほんとだね。」

沈黙。

観覧車の窓から、夕日が覗く。

キラキラと輝いていて、私達を照らしている。

夕日が当たって、顔が赤いように見える。

…それも、良いんだけど、さっきからずっと直人君が、窓の外を見てソワソワしているように見えるんだけど。

「…直人君、今日はありがとう。」

「…え、どうしたの?急に。」

「…お礼言っただけだよー。それに、本当に思ってるから、言っときたいんだよね。」

「…お礼なら俺の方もだよ。今日は一緒にデートしてくれてありがとう。」

「…どういたしまして♡」

「…これはまほろだけじゃないけど、俺の彼女になってくれてありがとう。いくら運命だからって、7人の彼女達と同時に付き合うって結構な決意が必要だと思うんだ。だから…本当にありがとう。嬉しくてさ、こうやって誰かと遊びに行けるのが。」

「…直人君、何言ってるの。直人君を好きになった時点で、どんな運命にも覚悟を決めてるんだよ。それは、7人皆一緒だと思う。だから、私もありがとう!」

嬉しくて、思わず笑う。

こんなに"ありがとう"って言ったの、今までにないよ。

「…まほろ、窓を見て。」

直人君が腕時計を見て、呟く。

「…え?」

パパーーン!!

振り向くと、色鮮やかな火が飛び散った。

花火だ。

「…え!?直人君!?これ、なに?」

「…ここの遊園地、今日閉園前に花火を上げるらしかったんだ。だから、まほろと2人で見たくて、観覧車に誘った。」

…確かに、観覧車から見る花火は、近くてとても綺麗だった。

こんな経験、1度だってした事ない。

ポロポロ。

いつの間にか、涙が零れていた。

「…ま、まほろ!?」

「…ごめ、え、だって…う、嬉しくて…こんな、素敵なものを用意してくれてて…ほんとに…。」

涙が止まらない。

下を俯いて、涙を止めようとする。

けど、自動で止まるはずなく、止まらない。

少しして、前に影が出来る。

「…え、な、直人君…!?」

直人君はそのまま近づき、頬に触れた。

そして、指先で涙を拭う。

ようやく、涙が止まった。

「…泣いてるの、可愛い。」

直人君が笑う。

「…ズルいよ、そんなの。」

再び、流しそうになったから、必死に止める。

やられてばっかりじゃ、ないもん。

頬に触れられた直人君の手に触れる。

唇と唇を重ねた。

「…!!」

パパーーン、と花火が上がる。

唇を離し、べっと舌をだした。

「…赤くなってる直人君もカッコイイよ。」

「…ズルいね、そんなの。」

言い返し。

花火に包まれながら、イタズラっぽく、笑みを浮かべた。

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