第22話

16.5話:今日の彼女達 〜if物語〜


「夏だ〜!海だ〜!海だ〜!」

「…なんで海を2回言うのよ。」

「それほど楽しみだったのですね…!」

「良いね、海。」

「海…初めてですわ!」

「…え!?ホント?なら、めっちゃ楽しもう!」

「…直人、ありがとう。私も海は初めてだよ。」

「うん、良いよ。ほら、莢華も行きなよ。」

「…あぁ、分かった。」

赤芽、蘭、葵、凪、撫子、まほろ、莢華、そして、直人は海に来ていた。

8人で相談した結果、"海"が夏らしい!と言う事で決まった。

俺は、7人の彼女達を、レジャーシートに座って眺めていた。

パラソルが日陰を作ってくれている。

「…わぁ〜蘭ちゃんの水着可愛い〜♡」

「…そ、そうかしら。……ありがとう。」

「照れてる〜。可愛い〜!」

「…う、うるさいわね。照れてなんかないわよ。」

赤芽と蘭は水着について話している。

「葵は海来た事ある?」

「…い、1度、お父様とお母様、執事の寺門と来た事があります。」

「…え!?執事!?詳しく教えてー!!」

葵とまほろは葵の執事の話で盛り上がっているようだ。

「…撫子と莢華は海、初めてなんだよね?ゆっくり話しながら行こう。」

「感謝致しますわ。」

「…丁寧にありがとう。感謝するよ。」

「2人とも真面目だね。」

凪と撫子、莢華は海辺をゆっくり歩いていた。

「…じゃあ、直人君、私達着替えてくるね〜。」

「…うん、行ってらっしゃい。」

手を振り、見送る。

今思い出しても、不思議な出会いだった。

彼女達全員それぞれ出会いは違うけれど、最終的に仲良くなって、全員が幸せになれている。

今はそれだけで十分幸せだ。

彼女達はそれぞれとても良い性格をしている。

赤芽は、明るくて友達を作るのが上手。自分の好きな事に素直で真っ直ぐ。

凪は、インドアのスポーツ大好き。特に野球好きで、いつも全力。だけど、周りを良く見ている。

葵は、謙虚で誰に対しても礼儀を重んじている。感謝を忘れない、心優しい持ち主だ。

蘭は、賢く、でもそれを高を括ったりせず、いつも熱心に勉強している努力家だ。

撫子は、落ちつていて、品がある。感情的にならず、冷静に物事を判断出来る頼りになる人。

まほろは、おっちょこちょいで、あざと可愛い。誰にでもフレンドリーだ。以外にインドア派なのが驚きだ。

莢華は、口数は少ないけれど、誰よりも大人っぽい。ミステリアスだが、人の些細な変化にも気づく。たまに行動が大胆。

「…おい、見ろよ。あの女達。めっちゃ美人。」

「…うわ、本当だ。全員可愛いー。あと胸でけぇ。…でも、あれだけ顔面良かったらもう彼氏とかいるだろ。」

「…だよなー。美人だと夢も浅いぜ。」

「なー。」

男の声が後ろから聞こえる。振り向くと、道を歩いていた。

泳ぎに来たわけではないらしい。

海は俺達以外にも沢山いる。

男達が過ぎ去り、海に向き直る。

男達の会話が頭から離れない。そうなのだ。

俺の彼女達ーー全員、可愛いのだ。

後、余計だが、男達が言った通り胸は大きい。

それを言うと、蘭辺りに「…は?どこ見てんのよ。変態が。」とでも言われるに違いない。

ふふっとなんだか嬉しくなり、笑っていると、

「…なーおーとーくーん〜!何してるの〜?遊ぼ〜。」

膝に手を置き、俺を見下ろしている。

海辺からいつの間に来たのだろう。

「…!!」

赤芽が水着を着ていた。

さっき着替えに行ったので、当たり前だが。

赤色のビキニ姿は、赤芽によく似合っていた。

何時ものカチューシャではなく、今日はリボンを付けていた。

「…何よ、せっかく遊びに来たのに貴方は遊ばないのね。失礼な人。」

蘭も着替えており、…ハイネックビキニというやつだろうか。

下がロングスカートのようになっている。

ただ、右斜めに長くなっており、蘭のほっそりとした左足が見える。

髪はシュシュでサイドテールにしている。

「…今の台詞を訳すと〜、せっかく遊びに来たのに直人君が遊んでくれなくて寂しい〜って言ってるよ〜。」

「なっ…!べ、別にそんな事、思ってないわよ。誤訳よ、誤訳。」

フンっと蘭はそっぽを向いてしまった。

「…2人とも。」

「…何〜?」「何よ?」

「…水着、似合ってるよ。」

「えっ本当〜?ありがとう〜。」

「…何よ、心配して損したわ。これでも飲んでなさい。」

そう言って、また海辺の方へ歩いていった。

しかし、数歩歩いて、止まった。

くるりとゆっくり蘭が振り向く。

「…そ、その。み、水着はあり、がと。」

「うん。」

俺の返事を聞くと、顔を赤くしながら歩き出した。

投げられたのは清涼飲料水.ポカリだった。

もしかして…熱中症と思って心配してくれていた…?

「…ツンデレだね〜。」

「…そうだね。後でお礼言ってる置くよ。」

「うんうん。」

赤芽と話していると、

「…赤芽ー直人ー。ビーチバレー、しない?」

凪がこちらを見て、手を振っている。

凪はショートパンツの水着だ。

スポーツ系の凪にピッタリだった。

「…お、良いね〜!福祉士だから、体力はあるつもりだよ〜。」

準備体操のように手を右に左に伸ばしながら、自信満々に答える。

赤芽がこちらを向く。そして、手を掴んだ。

「…直人君、行こ〜。」

「うん。」

パラソルから出ると、日差しが暑かった。

前を向くと、ビーチバレーのコートを用意している凪、莢華達が見えた。

莢華はクロスデザインの水着だ。白色のトップが莢華のクールさと銀髪に良く似合っていた。

髪はいつも通りサイドに少し髪を垂らしてお団子にしている。

「…撫子と葵は?」

ふと、2人がいない事に気づく。

「撫子と葵はボールを取りに行ってるよ。海の家で貸してくれるんだって。」

凪がネットの紐をポールに結びながら答えた。

「…なるほど。そっか。」

「…ちなみに、蘭とまほろは飲み物とか買ってきてくれてる。」

「…ありがとう。俺、何もしてない。手伝うよ。」

「全然良いのに。…でも、手伝ってもらおうかな。」

「もちろん。」

「…んーでも、もうほとんど出来てるから…あ、じゃあコートの線引いてくれない?」

そう言って、そばに落ちていた木の枝を拾い、渡す。

「了解。」

木の枝を受け取り、コートを見ながら、均一になるように描いていく。

ザー、ザー、ザザッ。

近くから、何かを描く音が聞こえた。

俺と同じように、砂浜に文字を描くような音。

振り向くと、莢華が反対コートの線を描いていた。

「…もうネットが出来たから手伝おうと思って。」

俺の視線に気づいたのか、何とも言わず、答えてくれる。

「…ありがとう。助かるよ。」

「どういたしまして。」

ザー、ザー。

線を引いていくだけの静かな時間が流れる。

波の音と、遠くから聞こえる蝉と人の声だけが響いている。

凪はいつの間にか、いなくなっていた。

赤芽もいない。

荷物でも取りに行ったのだろうか。

「…皆さん、お待たせ致しましたわ。ボールを持ってきましたわよ。」

「…お待たせしまして、すみません。」

撫子と葵がボールを持って帰ってきた。

葵においては軽く頭を下げている。

撫子は、バンドゥビキニというものを着ていた。赤い大きなリボンはいつも通りだ。

葵は、リボンデザインのもので、トップのフロントがリボンで結ばれたようになっていて、下のミニスカートのようなボトムスも、リボンが付いていた。

髪はツインテールにしていた。

「…そんな事ないよ!こっちも今出来たばっかりだし。」

「…まぁ!大きいコートですわね。思い切り打てそうですわ。」

「…撫子さん、凄いですね…!私は自信ないです。」

少し悲しそう目を伏せる。

「…そんな事ないですわ。私は経験者でもないですし。…大事なのは楽しむ事ですのよ?葵さん。」

「……はいっ!私、頑張ります!」

2人はなんだか姐さんとその見習い弟子みたいで良い関係だな、と思った。

2人は気が合いそうで良かった。

「…直人くーん!皆ー!飲み物買ってきたよー。」

両手に2つずつペットボトルを持ちながら走ってくる。

まほろはオフショルダービキニで、小花柄の水色が、まほろのホワホワした雰囲気に似合う。

「みんな、どれがー…キャッ」

躓きそうになる。ペットボトル2本が宙を舞う。

「…まほろッ…!」

助けに行こうとするが、少し遠くて間に合いそうにない。

「…ッたく。危なっかしい。」

近くにいた凪に自分の持っていたペットボトルを預け、片手でまほろの腹、体を支え、宙に舞ったペットボトルをもう片方の手で受け取る。

蘭の機敏な動きに感動する。ときめいた。

「…ヤダ…なにあのイケメン…。」

クール女子のかっこよさ率が凄い。

今の俺の顔は少女漫画でイケメンにときめく女子の顔になっているだろう。

「…あんたの彼女の1人だよ。」

呆れた声で、凪が素早くツッコミをする。

「…さ、やろっか。ビーチバレー。」

片手を腰にあてながら、凪が全員に声をかける。

「…ねぇ、皆。」

「何〜?」

「ん?」

「何でしょう?」

「何よ?」

「何ですの?」

「何かな?」

「…何だい?」

それぞれの声が響く。

「…皆今日の水着とっても綺麗だし、可愛い。」

「「「「「「「……ッ。」」」」」」」

7人全員が顔を赤くする。

「…ありがと〜めちゃ嬉しい〜♡」

「…面と言われると照れるね…。」

「…あ、ありがとうございます。嬉しいです…!」

「フンッ…それはさっき聞いたわよ。」

「…褒めて頂き光栄ですわ。」

「えへへ、嬉しいなっ!」

「…ありがとう。お礼のキス、いる?」

「…い、いらない。今は…。」

今度は俺が赤くなる。

「…さ、やるよ。莢華の冗談は置いておいて。」

「…え、冗談じゃ…。」

「やるよー。」

"冗談じゃない"そう聞こえた気がしたが、何も聞かなかった事にされて、ビーチバレーは始まった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…つ、強いですわ…。」

「…お強い、ですね。」

ハァハァと肩で息をしながら話す撫子と葵。

逆に、

「…やったー!勝ったね!」

「…ふふ〜凪ちゃんやるね〜♡」

ブイサインをし、ハイタッチしているのは、勝者の凪と赤芽。

10回勝負で、10対4で撫子達は負けていた。

「お疲れ様。やっぱりスポーツ系の凪達は強いね。」

「そうですわね。」

「全くです…。」

俺は彼女達にスポーツドリンクを渡す。

「ありがとうございます。」

「感謝致しますわ。」

「次は私達ですね、莢華先輩。」

「…蘭はバレーの経験はあるかな?」

「…かじった程度に。」

「そうか…まぁ、お互い頑張ろう。」

「はい。」

蘭と莢華は、中学生の時の先輩らしい。

チームプレーには強そうだ。

それに対抗するのは、まほろと俺、直人だ。

「俺、普通のバレーはした事あるけどビーチバレーはした事ないな。」

「ホント?私は結構やるよー!」

「マジか。頼もしいな。」

「ふふっ期待してて!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…あ、あぁ。若い子って恐ろしい。」

「…まほろも同じくらいでしょ。」

「舐めちゃいけないよ、直人君。20代は1歳差でも結構違うんだから。」

「…そうかなぁ。」

スポーツで、と言う事かな。

でもまぁ、4対6で勝ったし。良いと思う。

「…先輩、負けましたね。」

「…楽しんでやろうと思っていたが…なかなかに悔しいな。次は、負けない。」

「…ですね。」

2人は小さく微笑んだ。

今日のビーチバレーの結果

第1位:赤芽、凪チーム 4勝1敗

第2位:莢華、蘭チーム 3勝2敗

第3位:まほろ、直人チーム 2勝3敗

第4位:撫子、葵チーム 1勝4敗

「…ま、負けちゃいました。」

「…全敗ですわね。」

シュンとする葵と撫子を赤芽と凪が慰めている。

「…まぁ、さ。まだ来たばっかりだし、楽しもう。次は…スイカ割りだよ。」

凪がスイカと棒を持ちながら、笑った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…は〜〜遊んだ遊んだ〜!」

大きく伸びをしながら赤芽が呟いた。

「…結構遊んだね。」

シャクシャクスイカを頬張りながら凪が答える。

スイカ割りを終え、俺達はスイカを頬張っていた。(ちなみに割ったのは葵である。)

「…もう二度とあれはしないわ。平行感覚がおかしくなる。」

「…もう一度したいのね、蘭ちゃん。」

「…しっしたくたいわよ。」

ムフフとまほろが笑い、蘭がそっぽを向いた。

「…私、初めてやりましたけれど、とても楽しかったですわ。」

「…確かに楽しかった。ありがとう、直人。」

撫子と莢華が話した。

皆が俺を見る。

全員、にこやかに微笑んでいた。

「…また、来ましょうね。」

葵が小さな両手に大きなスイカを持ちながら、笑う。

皆、愛おしく、可愛い彼女達。

俺が命を賭けても守りたいもの。

幸せを噛み締めるように、俺も笑った。

「…うん。また、来年の夏。絶対に行こう。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…と君、おと君。直人君ッ。」

「…ッ…ん?」

ぼんやりとする頭に声が被さる。

ぼやけたピントに誰かの顔が見えた。

それはやがてジワジワとはっきり見えるようになった。

「…講義中に寝ては駄目だろう?」

危うく教授にバレるところだったよ、と笑った。

「…な、なずな…!?」

「…ん?」

なずなが不思議そうに首を傾げる。

「…な、なんで…生きて…だって、なずなは…」

信じられない俺を他所に、なずなはフッと笑う。

「おいおい、人を勝手に殺さないでくれよ。…それとも、夢で悪いものでも見たのかな?」

「…あ、いや…」

そんなんじゃない。

むしろ、とても良い夢を見ていたような…

「…何もないなら良いが…。」

なずなは髪を耳にかける。

そして、俺に近づき、囁いた。

「…何かあったなら、すぐ私に言ってくれ。」

君の事を助けるから、と小さく微笑んだ。

「…なずな…」

もし、となずなが呟く。

俺を見ず、何か遠くを見ていた。

「…本当に私が死んだ夢を見たその時は、どうか自分を責めないでくれ。」

なずなは俺を見た。

何もかもを見据えるように、真っ直ぐと。


"ごめん"


「……なずな…!」

"なずな"

知らない人の名前を呟き、勢いよく起き上がった。

気がつくと、俺はベッドで寝ていた。

今度は素早く目が覚めた。

今見た夢を思い出す。

どれが夢だったのか、現実だったのか、分からない。

どちらとも、現実だったかもしれないし、どちらとも、夢だったのかもしれない。

もしくは、どちらかが夢で、どちらかが現実か…

考えるのを、止めた。

考えても、分からないから。

"ごめん"

最後に言われたあの言葉が忘れられない。

なんで、最後に謝ったのだろう。

彼女には、何が見えていたのだろう。

なんで…

「…なずな…」

自分でもわけが分からず、涙が流れた。

頬を濡らす。

「…せめて、良い夢でいさせてくれよ…。」

その言葉は誰にも届く事なく6畳のワンルームに


消えた

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