第20話

15話:お見合いに恋


「お、お見合いですか…?」

私、百亭葵は目を丸くしていました。

今、お父様の部屋で、お話をしていました。

先日、直人さんと正式にお付き合いをさせて頂き、お父様とお話をしています。

それなのに…また?

いつの間にか不安な顔をしていたのでしょう。

お父様が優しい声で、言葉を続けました。

「葵、誤解させるような事を言ってすまない。…直人君と別れさせるつもりはないよ。ただ、向こうの親と話していないだろう?だからこちらから話を通したんだ。」

「話…ですか。」

いつの間に、そんな事…気づきませんでした。

少し、恥ずかしいです。

「そうしたら、話したいとおっしゃられてね。…だから改めてお見合いと称してやろう、と言う事でね。…理解したかな?葵。」

お父様が私を見ます。

「はい。理解しました。…今度は私が直人さんのお家へ行くんですね。」

な、なるほど。直人さんがこちらへ来て頂いたように、私も行くのです。

ドキドキします…!

頑張りましょう、私がそう決意した時、コンコンとドアをノックする音が聞こえました。

乳母でしょうか。それとも執事でしょうか。

「…お話は済みました?あなた。」

誰とも違いました。お母様です。

「…失礼します。旦那様、お嬢様。」

後ろに執事の寺門もいました。

軽く、会釈をします。お父様は手を上げて挨拶をしました。

「…ああ、済んだよ。さすが私の娘だ。理解が早い。」

ハハッとお父様は笑いました。

目の前で言われると、恥ずかしいです。

「…まぁま、今日は機嫌が良いですね。…ねぇ、寺門。葵と着物を選びに行きましょう。下手な格好で行けないわ。」

「…かしこまりました。お嬢様の晴れ姿を泥で汚す訳にはいきませんから。」

「…てっ、寺門。まだそこまでじゃないです。」

晴れ姿とは、本来結婚式など、おめでたい特別な式などで使うもので…お見合いは違うのでは…。

「そんな事ありませんよ。見合いも立派な事です。ましてや、お嬢様の人生に関する事。晴れ姿と言っても過言ではありません。」

寺門…そんな無表情で言われたら困ります。

無表情なのは何時もなのですが…。

「コラコラ、寺門。葵をあんまり虐めるんじゃない。…ほら、困ってるじゃないか。」

お父様が私を見て、寺門を注意します。

何だか誤解させて申し訳ないです。

「…虐めてませんよ、旦那様。思った事を申したまでです。」

「…お前のそう言うところは素直に尊敬するぞ。」

「…勿体ないお言葉、ありがとうございます。お嬢様、行きましょうか。運転致します。」

「…あ、ありがとうございます。お母様も行きましょう?」

私は声をかけました。

「…奥様、先程は述べませんでしたが、まだ業務が残っていると言う事ですよ?」

ギクッ。お母様の肩が震えました。…まさか、図星だったのでしょうか。

「…あ、あら?そうだったかしら。…そんな事は」

「ありますよ、奥様。観念して下さい。」

お母様が話すのと被さるように寺門が述べました。

その言葉で、お母様はガックリと肩を落としました。

「…じゃあ、寺門。葵と着物を選んできてちょうだい。…1番葵に似合う物をね。」

お母様が寺門を見ます。

真剣な目です。

「…勿論ですよ、奥様。私はお嬢様が赤ん坊の頃からずっと側にいますから。お嬢様に似合う物は、良く知っています。」

バチバチ。何やら、お2人の間に火花が飛んでいるように見えるのですが、見間違いでしょうか。

確か、お母様と寺門は歳の近い、昔馴染みだったと聞いています。

ですから、これ程仲良しなのですね!

(葵は勘違いをしていた。それに気づく事はなかったと言う。)ナレーション:作者

「…行きましょう、お嬢様。こんな奴は置いておいて。」

「…あら、執事の分際で口答えをするつもり?」

「…コラコラ2人とも葵の前で止めなさい。…寺門、素が出ているよ。」

「…申し訳ありません。つい、素が…てへ。」

無表情で、手を拳の形にし、頭にコツンとぶつけました。

舌も少し、出しています。

こんなお茶目な寺門、初めて見ました。

「寺門、取り敢えず行ってこい。葵、行ってらっしゃい。1番綺麗なのを選んで来るんだぞ。」

「分かりました、お父様。」

「今度こそ行きましょう、お嬢様。」

ドアを開け、待ってくれます。

私は振り向き、お父様とお母様に会釈をすると部屋を出ました。

寺門も会釈をすると、ドアを閉め、私について来ました。

車も運転して下さるので、感謝しなければいけませんね。

「…ありがとうございます、寺門。」

「…?こちらこそ、ありがとうございます。お嬢様。」

私は門を抜け、寺門の用意した車に乗りました。

これから、楽しみです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…目的地に着きました、お嬢様。」

それと同時に車の扉が開きました。

ありがとうございます、とお礼を言い、車を降りました。

着いたのは、馴染みの服屋さんです。

ここで、七五三や制服を着る時に作って頂きました。

ここの職人さんはとても腕が良いんです。

とても細やかで、何時も綺麗な服を作って下さります。

「これはこれは葵様、ようこそいらっしゃいました。…久方ぶりですな。」

「お久しぶりです、四季守さん。…今日はお見合いに着ていく服が欲しくて。」

「そうでしたか!いやぁ、葵様がお見合いとは。月日が経つのは早いですな。…勿論、ありますよ。」

取り敢えずゆっくり見てください、と隣の部屋まで連れて行ってくれました。

沢山の服があります。そうでした。

ここで毎回来ては、一緒に選んでいました。

着物、ドレスなど色とりどりの服がトルソーにかけられています。

ハンガーにかけられているのもあります。

桃色、黄色、水色…桜に菊に菖蒲。

どれも本当に綺麗です。

私に似合う物…どれが良いんでしょう。

「…て、寺門。私、何が1番似合うでしょうか。」

悩んだ末、寺門に助力を求めました。

1人で分からない時は、誰かに聞いた方が早いです。

優柔不断の結末です。

「…お嬢様は綺麗ですので、何でも似合うとは思いますが、敢えて言いますと…これとかどうでしょう?」

カチャカチャとハンガーにかけられている服の中から、ひとつを取り出しました。

それを、私に差し出します。

赤色の、白い牡丹が描かれた着物です。

白と赤の対比と、牡丹が大きく描かれているので、とても映えていて綺麗です。

思わず見惚れてしまいました。

…直人さん、綺麗と言って下さるでしょうか。

寺門は悩む葵を横から見ていた。

そうして口を開いた。

「お嬢様、これはあくまで私の意見です。1番大切なのは、お嬢様の意見です。…直人様に聞けば宜しいのでは。」

私は寺門の言葉に振り向きました。

「…それは駄目です。寺門。」

「…?何故です。」

「…だって、お楽しみにしたいんです。その方が、う、嬉しいかなって…。」

(あ、お嬢様可愛い。)

執事と店長(四季守)がやられた。

自分の頬が赤くなるのが分かります。

「…お嬢様、どうしますか?この赤にします?」

「は、はい。それで、お願いします。」

「…では、店長。お会計を。」

「…は、はい。ありがとうございます。…こちらへ。」

そう言い、お会計に向かいます。

お会計をするのは寺門なのですけれど。

私だと、緊張して時間がかかってしまいます。

「お嬢様?帰りますよ。」

そうこう考えている内に、終わったみたいです。

「分かりました。あ、あの、四季守さん寺門、ありがとうございます。」

「いえいえ、それはこちらですよ、葵様。相変わらず礼儀正しいですね。」

良い子に育ちましたね、と寺門に話かけています。

照れます。顔が赤くなるのを抑えるため、両手で頬を覆います。

「ええ、本当に。帰りましょう。」

バタン。車の扉が開きました。

会釈をし、乗ります。

出迎えて下さった四季守さんに会釈をし、車は動き出しました。

車の中で、私は寺門に聞きました。

「…直人さん、喜んでくれますでしょうか。」

少しして、寺門が口を開きました。

「…きっと喜んでくれると思いますよ。お嬢様ですから。」

その言葉を聞きながら、私は窓を見ました。

青色だった空は、朱色に変わり、カラスの黒を引き立たせながら輝いていました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お見合い当日。

(…どどっどうしましょう…!!)

ドキドキ。心臓が先程からとてもうるさいです。

体もとても熱いです。

体調は悪いわけではないのですが。

何もやらかしてはいませんが。

そう、これは"緊張"です…!

寺門に聞くと、相手の事を考えると良いですよと言われました。

駄目でした。更に緊張してしまいました。

寺門、折角のアドバイス、上手く出来ませんでした。すみません。


その頃の寺門

(同僚)「…お前、お嬢に何言ってるんだよ。聞こえてたぞ。あれじゃ、更に緊張するじゃねぇか。」

(寺門)「…お嬢様は純粋だし…つい。」

(同僚)「…。」

(絶対、それだけじゃないだろうなー。)

(寺門)「…何か?」

(同僚)「…何でも。」


「…葵、ここだ。」

お父様に連れられて、いよいよ直人さんとそのご両親がいらっしゃる部屋の前までやってきました。

もう卒倒しそうです。

お父様がノックして入られました。

襖の向こうにいる、直人さんと目が合いました。

「…葵。」

直人さんがこちらを見て、固まっています。

変じゃないでしょうか?

あの赤い着物を着、寺門に髪を結って貰いました。横には三つ編みをし、着物と同じ柄の牡丹の花の簪をつけました。

お化粧も少し…恐縮ながらして頂きました。

これを出来る人は本当に凄いです。

魔法のようでした。

「…あ、あのその…。」

う、上手く話せません。

「…うふふ。直人ったら良い人見つけたわねー。百亭さん、若者はここに置いて、あちらでお話しましょう。」

「…いいですね。私達は邪魔になるでしょうから。…葵、上手く話すんだぞ。」

ポンと私の肩を叩いて、部屋を出ていきました。

シーーーン

静かな空間が広がります。

「…葵、取り敢えずこっちに来て座りなよ。」

「…し、失礼します。」

そろそろと部屋に入り、直人さんの真向かいに座りました。

「…緊張してる?」

「…は、はい。…直人さんは緊張していらっしゃらないのですか?」

「…いや、すっごく緊張してる。葵、手を出して。」

手…?何をするんでしょうか。

疑問に思いながら、右手を差し出しました。

「…人、人、人、人、人……」

直人さんは合計10回"人"と書き、読みました。

「これは…?」

「…緊張した時のおまじない。…俺も来る前にやったから。」

そう言って、左手を上げ、見せました。

「…それから、」

クイッと私の右手を引っ張り、直人さんの顔…口に近づけました。

「…何を、」

するんでしょう?

その前に、直人さんが私の手を噛じる真似をしました。

手の平に微かに直人さんの唇が触れました。

「…ッ。」

急に体の温度が上がっていく感覚が分かります。

異性の…他の人の唇の感覚とは、こんなにフニフニしているのですね…。

「……葵、可愛い。」

「え、…」

直人さんがボソッと呟く声が聞こえたかと思うと、私の右手を握ったまま、もう片方の自分の手を机に乗せ、グンと顔を近づけさせました。

そして、さっき感じたフニフニとした柔らかい物が、私の唇に触れました。

今度こそ、しっかりと。

握った(握られた)ままの手に力が入ります。

しかし、触れた瞬間。

スパンッ。

何かが開く音が横から聞こえました。

……その音は、襖だったようです。

「お嬢様…!もうそろそろお時間なので、お迎えに上がーー…」

そこまで言って、声が途切れました。

「…あ、て、寺門…。」

今の行為を見られた事と来た事による驚きで脳が爆発しそうです。いえ、爆発しました。

高熱が出たみたいに真っ赤です。

「…の、…ですか。」

「「…え?」」

2人揃い、呟きました。

「…家の、お嬢様に何してるんですか!?」

寺門の大きな声に私はビクッと声を震わせる。

「玉のように大切にして来たお嬢様に何をしていらっしゃるんですか?直人様。確かに貴方は旦那様も承認なさった正式な恋人です。しかし、"キス"と言う名の物で簡単に可愛らしい清純なお嬢様のお体を汚さないで頂きたいです。…それとしては、この18年間お嬢様を育てて来た私のプライドが許しません。せめて、私に言って、目の前で、して頂きたいものです。…はぁ。」

一息で、寺門は大体このような長々とした文章を述べました。

…寺門の肺活量はどうなっているんでしょう。

「…わ、分かりました。」

いきなりの寺門の訪問に驚かれながらも、直人さんは返事をしていました。

少し、恥ずかしいので後で怒らなければいけませんね。

「…寺門…ッ。いきなり大声を出したと思ったら、何を言ってるんだ。度を越しすぎだ。」

「寺門、葵が心配なのは分かるけど、さすがに言い過ぎよ。…引いたわ。」

「…奥様、旦那様申し訳ありませんでした。」

サラサラと砂のようになりそうな寺門を、皆で励ますと言う事で、この長い1日は幕を閉じたのでした。

「…葵。」

直人さんが近づいてきました。

私の耳元で囁きます。

「…さっきは少し邪魔されたから、続きはまた今度。」

葵、赤面する。

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