第18話

13話:ロリータに秋葉原


「直人君〜こっちとこっち、どっちが良いと思う〜?」

「え?うーん。」

直人君は唸り声を上げる。

男の子が聞かれて困る言葉が幾つかある。

その1つがこれである。

「どっちが良いかなぁ〜。」

もう1度、悩む様にして聞く。

多分大勢の男の子が困っている言葉だと思っている。

何故なら返答を間違えると怒られるらしいからだ。

どっちが良い?と問われ、どっちも可愛いよ、と言う。すると適当に答えないで、と言われるらしい。

逆に片方を選んでも、何でこっちが似合うと思ったの?と言われるらしい。

さっきから"らしい"と言ってるのは、本に載っていたからである。

同じ女子としても共感や、そうなのかな〜?と疑問形に思う所、半々だった。

まさに今、この答えによって変わる窮地に追いやられている直人君を赤芽は楽しく見ていた。

今、赤芽が差し出している服は、黒のゴシックなワンピースだ。

良く着ているロリータ服。

その服にフリルが付いているか、付いてないかの違いである。


直人の気持ち

正直に言うと、よく分からない。

ロリータ系を良く知らない、と言うのもあるし、まず些細な違いをあまり意識する事がない。

だから返答に現在進行形で困っている。

でも、フリルが付いていた方が可愛いんじゃないか?と思い返答する。


「こっち…フリルが付いてる方がいいんじゃないか?」

「本当〜?だよね〜。フリルある方が可愛いよねぇ〜。」

返答を間違えなかったねぇ〜と思いながら心の中で拍手する。

服を体に当てながらクルクル回る。

着ている服の裾やスカートがヒラヒラ舞った。

「やっぱロリータ系の服を買う時は秋葉原に限るね〜。めっちゃ見つかる〜。」

そう。ウチ達は今、東京の秋葉原に着ている。

秋葉原はアニメとマンガ、つまりオタクの聖地で、コスプレも持ってこい!なんだ。

ウチはコスプレじゃないけど〜まあ、こう言う所にあるんだよねぇ〜。

「そうか。俺、あんまり来ないから分かんないな。」

「そうなの〜。」

確かに来なさそう〜と思いながら、更衣室に入る。

「ちょっと着てくるね〜!可愛いウチに期待しててねぇ〜。」

「分かった。期待してる。」

その言葉にキュンとする。

そう言う所がズルいんだよなぁ〜と思う。

「ねぇねぇ、さっきから気になってたんだけど、もしかして君、赤芽ちゃんの彼氏?」

更衣室で服を脱いでいる時、外から声が聞こえた。

女の人の声で少しムッとする。

「はい。彼氏です。」

キュンキュン!ズルズルと壁に背中を当てながら座る。

ハッキリ言われると照れるなぁ〜。

更衣室に居て良かったぁ〜と思いながらスカートを脱ぐ。

レースに気をつけながら慎重に。

「やっぱりそうなの!私、ここの店長でね、赤芽ちゃんはここの常連さんなのよ。」

「そうなんですか。どうりで。」

ふふふっと嬉しそうな笑い声が聞こえる。

"常連"と言う言葉でピンとくる。

なんだぁ〜あきちゃんか。

ホッと胸を撫で下ろす。安心した。

あきちゃん。本名:蜜竹 晶葉。

あきちゃんは金髪ショートカット、猫目で見つめられると迫力がある。

お化粧は少し濃いけど、全然可笑しくなくて逆に凄く似合っている。

さっぱりサバサバしていて、竹を割ったような性格だ。

恋愛話が大好きで、偶にお客さんから恋愛話を聞いて、割引してくれると言う事もある。

「あの娘ったらとっても可愛くてね、初めて来た時なんかーー」

「わ、わぁぁぁ〜〜!あきちゃん止めてぇ〜!」

慌ててあきちゃんの言葉を止める。

それは、黒歴史なの〜!!

「あら、噂をすれば。」

面白そうな顔で見てくる。

ヒーン。鬼〜。

「あ、赤芽が言われたくないなら聞きませんよ。」

「あらァ、紳士ねえ。」

「あきちゃんが鬼なだけでしょ〜。」

言われそうになったお礼に愚痴を吐く。

「な.に.か.?」

顔が笑ってるけど怖いよ〜!

「な、何でもないよ〜。」

アハハ、と乾いた笑いが漏れる。

「ちょっとしたイタズラよ!もー赤芽ちゃんはすーぐ信じるんだからー。」

「…むう。」

「…あーいじけた。」

「…赤芽ー服着よう?…今、その…下着、だからさ。」

急に気まずそうに直人君が話し出した。

恥ずかしそうに直人君は視線をズラす。

「…あ、」

下を向き、上を向き、直人君を見、また下を見た。

顔が真っ赤になるのが分かった。

「…わ、」

「わ?」

2人が不思議そうに反芻する。

「ワザとだもん〜!!!」

「ワザとじゃ駄目だぞ!?」

直人君のツッコミを背で聞きながら、シャッと更衣室を閉じた。

慌ててバババッと着替える。

ホックをやろうとし、グッと引っかかる感触が伝わる。

「…ありゃ〜?ありゃりゃ〜?」

グッグッとホックを上げようとしたけど、やっぱり無理。

若干焦り、冷や汗が流れる。

どうやら、髪が引っかかったみたい〜??

ど、どうしよう。

さっき、あきちゃんは「後は若い2人でどうぞごゆっくり〜。」とニヤニヤ意味深に笑いながら他の人の接客に行ってしまった。

なんでこう言う大事な時にいないの〜?

直人君をこのまま待たせる訳にもいかないしなぁ〜。

ん〜と考え、ある考えが浮かぶ。

待たせる訳にはいかないなら、…。

シャッと開ける。

「…あ、着替えー」

そのまま直人君は硬直してしまった。

ウチは着替え途中の服を片手で抑えながら開けたから、中々にときめく展開かなぁ〜?

そう思いつつ、ウチも顔は赤かった。

「…直人君!早く来て〜!!」

グッと引っ張り、更衣室へ引きずり込む。

引っ張り込んだものの、何をしようとしたか忘れそうになるくらいドキドキしていた。

更衣室は2人だと以外に狭かった。

狭い空間に2人、向かい合いながら下を向いている。

今にも顔が触れそうなくらい。

引っ張った時、咄嗟に握った手は何時でも外せるのに、外せなかった。

(暫くこうしていたいなぁ〜。)

「…あ、赤芽。」

直人君の方から口を開いた。

「な、直人君何〜…?」

「いや、連れて来た理由は何かな?って思って。」

その声でハッとする。ホントに忘れてた〜。

「いや、そんな大事な事じゃないんだけどね〜?この、ホックが髪で引っかかったからとって上げて欲しくて〜。」

「…あ、ああ。そんな事か。全然良いよ。」

後ろ向いて、と言う。

その言葉で直人君に背を向ける。

そして横を向く。

「…お、お願い〜…。」

「…うん。」

なんだろ〜?狭いからかな?

何時もより妙に緊張するよ〜。何でだろ〜??

直人君の手がウチの背に触れる。

ゆっくり、丁寧に優しく取ってくれる。

「…。」

「…。」

お互い黙りな空間が妙にふわふわしてくすぐったい。

恥ずかしい筈なのになんだか嬉しくて、いっちばんドキドキしてた。

「…ッ。」

「あ、ごめん。痛かった?」

「…だ、大丈夫。痛くない。」

…ホントはちょびっと痛かった。

でも心配させたくないから、嘘を付く。

大した事ではないけどね〜。

「…赤芽。」

「…ん?何〜?」

「言いたい事はちゃんと言ってね。些細な事でもさ。…彼女、なんだし。」

!!!…図星だぁ〜。

直人君は人差し指で頬をポリポリかいている。

さては照れてるなぁ〜?まあ、それはウチもなんだけど〜。

直人君は私をドキドキさせる天才かなぁ〜??

その時、ジイイイッとホックが上がる音がした。

「…あ、出来たよ。良かった。」

安堵した様に笑う。

「ありがと〜♡」

思わず、自然と抱きしめてしまった。

「…え?赤芽?」

直人君の声は上擦ってて慌ててるのが丸わかりだった。

だから、少し…少しだけ。もうちょっとイタズラしたくなった。

直人君の頬を両手で包み、顔を近づけた。

お互いの唇が重なり合う。

それは一瞬の事で、パッと離す。

「…んふふ。彼女なんだから、甘えるくらい良いよね?」

イタズラっぽく笑ってみせる。

「…うん。そうだね。」

お互い顔が真っ赤。りんごみたい。

今日は"お互い"の日だな〜と思い、笑う。

「…よし!今日はこれを着てかーえーろ〜!」

そう言って外へ出た。

「…ってきゃあああ!!??」

「…あっ赤芽?」

直人君の心配そうなの声が後ろから聞こえる。

さっさけんじゃった。

人少なくて良かったぁ〜。他のお客さん、すみません〜。

でも、だって。

「人が目の前にいたからってそんなに叫ばれちゃあ、ちょっと傷つくなぁー赤芽ちゃん?」

悲しいと言うより呆れた目でウチを見る。

ヴッッッッ。それなら悲しい目で見られた方が、メンタル保てるよ〜。

「ごめんなさい〜あきちゃん。ビックリしたんだもん〜。」

うるうるっとした目で見つめる。

お願い〜許して〜。

「…ハー、その顔はずるいねぇ。」

ハハハとウチを見て笑った。

「…ありがと〜あきちゃん♡」

「はいはい。…ほら、さっさと帰んな。彼氏待たせるつもりかい?」

クイッと親指を出し、手をウチの後ろに向ける。

指の先には直人君が。

!!!

「…ごめんねぇ〜直人君。行こっか。」

「うん。ありがとうございました。」

そう言ってお金を払い、店を出た。

お節介(?)な事に割引もしてくれた。

ありがたいけど、なんだか複雑〜。

店を出て歩きながら直人君がポツリと呟いた。

「…秋葉原って、以外に楽しいな。」

んふふ。楽しんで貰えて良かった〜。

「でしょでしょ〜!…また、行こうね!」

「うん。…月曜日にね。」

2人笑った。

それは軽やかな笑いで、賑わう秋葉原の街に溶けていった。

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