第9話

6話:A happy day:Tuesday 小松 凪


 「《今日》の彼女ーー??」


「そうだよ。私は直人の1日だけの彼女。他にも後ーー六人はいる。私は火曜日だからさ、月曜日には会ったんじゃないかな?」

彼女ーー小松凪の茶色の目がじっと見つめる。

月曜日とは、この前の柏赤芽である。

どうやら、彼女達の間では曜日で言い合うらしい。

「…うん。実は。」

覚悟を決めて言う。付き合った彼女に「もう一人彼女がいます。」なんて、言いづらい。

「そんなに怖がらなくて良いよ。私達は知ってて言ってるんだし。て言うか、月曜日は何も言わなかったの?どんな子かは知らないけど。」

彼女達はお互いに干渉してはいけない為、お互いの事を何も知らない…らしい。

…何故、俺が彼女とこんな話をしているのか、彼女·小松凪と出会ったのか。

それは数時間前に遡る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「そろそろ仕事…バイト探さないとなぁ…。」

俺、朝日直人は6畳のリビングで大の字になりながら呟いた。

足も良くなり、漸く車椅子生活を逃れられた今日この頃、また新たな壁にぶつかっていた。

親の仕送りも多少はあるが、それに漬け込んではいけない。

元々している飲食店のバイトもある。

が、"赤芽"と言う彼女が出来た為、お金の出費も多くなる。

それに新しいバイトもやりたい所だったので、好都合と言えば好都合だ。

「まずは…求人広告から…。…ん?」

色んな広告を見ていた時、ある一角のバイトが気になった。

「夏休み限定…遊園地のスタッフ募集中…。一緒に楽しい職場で働いてみませんか…。お、これ良さそう。何々…最終日には、この遊園地のペアチケットを給料と共にお渡しします!えっ。これめっちゃ良い。」

バイト終わりの後日。赤芽と遊園地デートが出来る。最高じゃないか。

「これ、やろうかな。」

早速電話をかける。

プルルル、プルルル、と電話の発信音が1LDKのリビングに響く。

ガチャッと受話器を取る音が聞こえた。

「…はい。バイトの広告を見まして。…はい、そうです。したいと思いまして…。あ、大学生です。…面接ですか。はい。分かりました。…では、明後日に。失礼します。」

プツッと電話を切り、フーーと息を吐く。

「明後日か…。準備しておこう。」


面接当日。

俺は天野原遊園地に来ていた。此処こそ、俺がバイトをする(かもしれない)場所だ。

今、その入り口まで来ていた。

ちなみに、まだ赤芽には言っていない。

受かるかも分からないからだ。

「あ、お兄さんバイトの面接受ける人ですよね。どうぞ、こちらへ。」

年輩のスタッフに誘導され、入り口から移動する。

今日は休園日なので、少数のスタッフしかいない。今いるスタッフは面接を請け負う人か、仕事がある人だろう。

案内された場所は、入り口のすぐ近く、言わばスタッフルームと言う場所だった。

自分で言うのも何だが、面接にピッタリだった。

まあ、そこ以外の何処でするんだ、と言う話だが。

「えーじゃあ面接を始めます。あ、そんな堅苦しくないから、気楽にして良いよ。大企業に受けに行くんじゃないんだから。」

ハッハッハと豪快に笑う、目の前の叔父さんとも呼べる年齢の人は、白髪が多く混じっていた。左目の黒子が特徴的だろうか。

どうやら一対一で行うらしい。

「じゃあ、まずは軽く自己紹介をお願いします。」

「はい。朝日直人。大学三年生です。」

「ふむ。大学生か。良いね。青春だね。…次、どうしてここにバイトしようと思ったのですか。」

「はい。それはーーー」

こうして、そんな質問が後二、三問続いた。

「…はい。ありがとう。お疲れ様でした。君は合格だよ。…明日から働けるかな?」

「…!はい。勿論です。宜しくお願いします。」

内心ガッツポーズをしながら、返事をした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『へ~。それじゃ、明日から遊園地でバイトするの~!?良いじゃない~!楽しそう~。』

遊園地内のベンチ。そこに座り、早速赤芽に報告していた。

しかし、あまり休園日の遊園地に長居してはいけないと思い、立ち上がる。

「それでさ、その最終日にーー」

ドンッ。"ペアチケットが貰えるんだけど"。そう言う前にぶつかる。

ぶつかったのは…同い年くらいの女子だった。

茶色の目と髪。髪はショートヘア。前髪を分けており、パッチリとした二重が良く見える。

白のTシャツにジーンズの短パン。

ズボンから太股が覗く。

彼女と目が合う。

目が見開き、思わず彼女を見行ってしまう。

何故か、強烈に彼女に惹かれた。

赤芽と出会った時と同じく様に…。

彼女も同じ様な状態で、地べたに足をついたまま、動かない。

『え~?ちょっと~直人君~?大丈夫~?急に黙りしちゃってさ~。』

スマホ越しに赤芽の声が聞こえる。

「…あ、ごめん赤芽。今、人とぶつかっちゃって…また、後で連絡する。」

『え~?大事な話があったのにぃ~。じゃあ、また後でね~。』

プツンと向こうで通話が切れた。

「…彼女さん?だったらごめん。邪魔、しちゃったかな。」

平然と言うつもりだったのだろうが、その顔は少し泣きそうで、元気がなかった。

「い、いや。大丈夫だよ。こっちだって余所見してたし。」

「…ねぇ。」

ぐっと直人のシャツの裾を握る。

下を向きながら彼女が呟く。

「その彼女ってさ、もしかして月曜日にしか会ってない?」

「え?」

その"え?"は、彼女がそんな事を聞くと言う純粋な驚きと図星。二つの意味が含まれていた。

「えっ…と、うん。確か…。」

彼女に言われて疑問が確信に変わる。

ずっと心の奥に引っ掛かっていて、抜け出せなかった疑問。

特に気にする様な事でも、聞く様な事でもなかったからずっと無視してきたが、改めて言われると不思議な気持ちになる。

仕事かも知れないし、偶々かも知れない。

でも…。

「何か…知ってるのか…?」

彼女の言い方ならーー何か、知っている様な気がした。

「うん。君にとって悪い話じゃないと思う。」

彼女は立ち上がった。そして、しっかりと頷いた。


 「私は小松凪。君の火曜日の彼女だよ。」


それから、序盤の話に戻る。

「…凪の言う通りなら君も彼女に…。なんか、こんな形でカレカノになるなんて…ごめん。」

「何で謝ってるんだよ。直人は悪くないし。…私も何でか知らないんだけどさ。…ま、こんな形だけど、宜しく。」

嫌いじゃないでしょ?と笑う。

「…うん。良し!私さ、あんましシリアスな空気得意じゃないんだ!バッティングセンター行こ!」

「…へ!?いや、良いけど…。」

「よーし。私、運動神経は抜群だからねー。」

グイッと手を引っ張られる。

ニッと凪が笑う。その眩しすぎるくらい明るい笑顔は、太陽に輝いていた。

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