第4話

3話:不幸な人間にとって死とは無期懲役の減刑である


「やあ、死ぬ気かい?青年。」


「…は?」

困惑する俺を無視してボンネット上でニヤニヤ笑っている。

月明かりを覆っているので顔は良く見えない。

が、頭をしっかり隠したフード下の口元は笑っているのは良く分かる。

髪は金色でセミロングで直毛。服は黒いワンピースでフードと繋がっている。だが、服はレインコートの様な形だ。

黒のタイツに黒のロングブーツ、と全身黒コーデだった。

「死ぬのは痛いよ。…まぁ、それを今身をもって体験しているけども。」

人の事故を一つの他愛もない出来事の様に、愉快そうに話す。

その様子に腹が立つ。

「…ッな、んな、んだ…あん、た…。」

事故に遭ってまだ数分。

身体中が痛くて意識が朦朧としている。

その中、精一杯喋る。

「ははっそのままじゃ話しにくいだろう。…私も聞きにくいし。それっ!」

彼女が"それっ"と言った瞬間フワリ、と意識が軽くなる。

そして、何故か車の外に出ていた。

仰向けに倒れている。

あ、俺死んだか?

「死んだか?、とかバカ言ってんじゃねーよ。」

心を読まれ、デコピンされる。

「いたっ…。」

少女のデコピンは普通に痛かった。

「ああっもう。本題先延ばしにするんじゃねー。」

前置きしすぎたッと舌打ちしながら何やら呟いた。

「何なんだよ…。」

さっきから体は軽くて楽だし、痛みもない。

言葉だってスラスラ話せる。

「不幸な人間にとって死とは無期懲役の減刑である。」

ニヤリ、と笑い名言めいた発言をする。

話は続く。

「…などとアレクサンダー·チェイスが呟いているが、お前はまだ、死ねない。と言うか、死にたくないだろう?」

なんせ、

そう言ってバッと両手を左右上斜めに上げる。片足を伸ばし、楽しそうだ。

「この!私が!素晴らしい提案を持って来たのだから!」

しぃぃーーん……。

"二人。深夜。静か。ヤバイ奴。"

この4つのワードをグー○ルで調べても、白けるのは分かる。

それにそんなノリに乗る気分じゃない事を知って欲しい。助けるなら。

白けた空気に気まずいのか不服なのか、咳払いをし、彼女は本題と言う目的を話始めた。

「…コホンッ。私はね、簡潔に言うとなずなの死神なんだ。」

「…はい?」

また、訳のわからない事を言い出した。

「まぁまぁ、落ち着いて聞いてくれたまえよ。なずなはな、今日"死ぬ"運命だったんだよ。…人の死とは、期限が決まっているんだ。不死の奴なんていない。…まぁ、当たり前か。

それで、私はなずなの魂を回収しに来た。」

「…ちょっと待って来れ。俺は?俺も死にかけなんだけど。死なないの?」

すると、少女は汚物を見る目で俺を見た。

「え?何?密かに自殺願望とかあるの?まぁ、何でもいいけど。君は死なないよ。運良く助かる。私が魂を回収したら、その後、救急車とか来るからさ。…安心しなよ。」

「安心なんて…してられるか…!!」

怒りが沸き上がってくる。

少女に対してではなく、自分自身に。

「落ち着けって。そんで回収して帰ろうっと思ってた訳だが。どうやらなずなは"視える"ようだからね。ーー私達の様なモノが。だからーー」

と話を区切る。

「だ、だから?」

何故か嫌に気になる。

「…面白くて、願いを三回叶えてあげようって思いました!」

笑顔で両手でVサインを作っている。

「何でそう思った!?」

本当に"何で?"である。

「…けどね、なずなはしなかったんだよ。願いを。折角なのに勿体ないだろ?…正確には"自分の為の"な。」

「…?待て。なずなはもう、魂をとられたのか?」

「…ん?あーごめん。そうそう。取ったよ。君が傷心してる間にチョチョッと。時間弄って。」

まぁそれより、と続ける。

「なずなは何て願ったと思う…?…お前が、この事故で生き残る、だぜ?…ああ、お前が考えそうだから言って置くが、なずなは自分が生き

残る事を"拒否"した。理由はーー」


『"運命に抗うのは趣味じゃない。""非科学的な物は信じない主義だからね。"…直人君には申し訳ないが。』


「…と言っていたよ。そう、なずなは自分で自分の運命を閉じたのさ。ーー分かってやれよ、彼女の意思なんだからさ。」

余りにも残酷な願いに目頭が熱くなり、涙が溢れる。口がカラカラだ。

言葉もつっかえる。嗚咽が漏れる。

止めようとしても涙は止まらなかった。

それでも、少女の話は止まらない。

「そこで、後"一回"願いは聞けるぞ。」

愉快そうに笑う。

「…?一回?」

「そうだ。一回だぞ。」

「いや、話だと二回は…。」

詐欺だ。詐欺。

「バカか、青年。直人君。二回目は彼女が自分の"二回分"の願いを君に上げる、と言う願いだったんだ。」

「何かせこいぞ…。」

「せこくない。大体普通じゃ叶えられない願い叶えてやってんだ。もっと感謝しろ。」

「急に態度図々しいな。開き直ったし。」

「うッせぇ。」

こんな人間初めてだ、とイラついている。

「…で。結局俺が三つ目を叶える訳か。」

「そうなるな。」


   「さあ言ってみろ、青年。」


不適な笑みを浮かべ、少女は笑った。

満月が煌々と少女を照らしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る