第7話

第6話:ルイくんの機嫌を直せ!


「…あ、あのう…ルイくん…?」

「……なに」

無視したいけど、やっぱり無視できない、そんな声色の返事が返ってくる。

お茶会から自分達の家に戻ったはいいものの、絶賛喧嘩中だ。

椅子に座るルイくんと、なぜかルイくんの膝に座る(部屋につくなり、強制的に座らされた)私。

いつもなら喜んでいちゃいちゃするけど、今はそんな空気ではなかった。

むしろ、真逆。

(喧嘩と言うか…ルイくんが拗ねちゃっただけというか…)

メーデイア様が女性で本当に良かった。

男性だったら、嫉妬どころではなかったはずだ。

(昔(転生前)からこんなんなんだから~。ほんとに私がいないと生きてけないなんて、可愛い♡)


天の声、改めておさらい。

リズ(愛実)は、共依存であり、愛されているという自覚者。

そして、愛が激重男を飼いならす、やべぇ女である。

ルイは、リズ一筋のヤンデレ。

ルイにはリズ、リズにはルイしかいないと思っており、リズと一つになるためには転生も躊躇わない男である。

二人そろって、やっばいね!!

以上、何もかもすべて思考放棄した天の声のナレーションでした!


「そろそろその、機嫌直してほしいな~て!そりゃ、お茶会に行くことを話してなかったのは謝るけど…。別にそこまでのことじゃないでしょ?」

「…そこまで…?」

ルイの眉毛がぴくッと動いた。

途中まで、「許してあげてもいいよ」感が漂っていたのに、「そこまで」と言った途端、急激にルイの周りの温度が冷える。

(やば!地雷踏んだ…)

反省しても、もう遅く、ルイくんの目は一切光のない、『病み』な目をしていた。

「…男じゃなかったから、一万歩、…ううん一億歩譲って許してあげようと思ってたのに…。…へぇ、リズには「そこまで」のことなんだ?俺しかいなくていいのに、こっそり誰かのもとに行っちゃってさ。俺がどれだけ心配したか、分かってる?分かってないよね、分かってたらこんなことするはずないもんね」

(…ど、どうしよう。止まらない…)

ダラダラと冷や汗をかく。

このままでは、言い分も聞いてもらえそうにない。

いつもなら、甘やかして、いっぱいいちゃいちゃすれば、機嫌を直してくれた。

けど今回は…完全に線引きを間違えてしまった。

さらに、『黙って行動した』という、いらないアンハッピーセットまでついてくる。

「…あの、ルイく…」

「言い訳不要。まずは罪を償ってもらわなきゃ」

「…?……!!…んむっ…は、んっ…」

そういって、顔をグイっと無理やりこちらに寄せたかと思うと、キスしてくる。

いつものように、甘くて優しいものではなくて、無理やりするような、荒くて、激しいキス。

それは、とどまることを知らず、どんどん激しくなる。

目に涙が止まる。

顔に赤みが増していくのが分かった。

このままでは、何も聞いてくれない。

またいつものように、流されてしまう。

「…ルイくん、聞いて…んッ…」

「なに?まだ自分が話を聞いてもらえる立場だと思ってるの?俺以外の奴にキスを許しておいて、理由を聞けだなんて…頭が悪くなったのかな、リズ」

これはその罰、と手の甲を、舐めるようにキスする。

悪寒とはまた違う、気持ち悪いようで、どこか心地の良い感覚。

それが、全身を伝う。

(うぅ…ルイくんのいじわる…こうやってやったら私が降参するの、分かっててやってるんだもん…)

「なに不満そうな顔してるの。これはリズのためにやってるんだよ?俺以外に勝手に会って、話して、接触を許して。むしろ、これで許してあげることに感謝して欲しいんだけどなぁ」

「…ルイくんは何も分かってないよ…!いつも私のためって言ってるけど、それは結局ルイくんのためでしょう?好きな人を独占したい気持ちは分かるわ。でもね、私はただ、友人が欲しかったの。急に異世界に来て、不安で…ルイくんと一緒って分かって、不安は消えたけど…」

「なら、それでいいじゃん」

「でも、友達は違うわ。ただ純粋に仲良くなりたかっただけ。ルイくんが1番ってのは変わらない。私の中ではいつもルイくんだけなんだから。だから、私の関係を縛るのはやめてよぉ…」

言って、急に悲しくなってきた。

ルイくんを大好きなのは、死ぬまで…ううん、死んでからも変わらないけど、やっぱり自分の好きなことや、他の人と話すことだってしたい。

「…えっリ、リズ…ごめん、そんなリズを悲しませたかったわけじゃなくて…リズに俺の気持ち、分かって欲しかっただけで…」

泣き始めたことが余程予想外だったのか、表情こそ変わらないが、オロオロし始めるルイ。

「大丈夫、私はちゃんと分かってるから…分かってなかったら、ルイの事、見捨ててると思うけど?」

その言葉に、ルイはバッと勢いよくリズを見る。

「…冗談でも、そんな事言わないで。…分かった、男はダメだけど…女は許す」

男の場合は俺も付き添うから、とルイなりの提案をしてきた。

「ふふっうん。それでいいよ」

そういうと、ルイはヒョイっとリズの体勢を変えた。

ルイの顔が、リズの顔と近い。

体温が上がるのが分かる。

「…ねぇリズ、今からしたいとこ、ある?」

「今!?うーん今じゃないけど…ピクニックに行きたい!クロエさまが教えてくれたの。裏にきれいな景色の丘があるんですって」

「…うん、良いよ。明日早速行こう」

一瞬、リズの答えが意外だったのか、きょとんとしていたが、やがて柔らかい笑みを浮かべた。

リズを支える手の温かみを感じる。

まだまだヤンデレだけど、この温もりをいつまでも感じられますように、と祈った。


***


「クロエさまの言う通りね!」

翌日、リズ達は有言実行、ピクニックをしに来ていた。

からりとした晴天で、雲ひとつない青空だ。

時折涼しい風が吹き、まさにお出かけ日和だった。

「…メイド達に準備させたのに」

レジャーシートをひくリズに、手伝いながらルイは呟く。

しかしその顔は、リズと2人っきりと言う現状からか、満更でもなさそうだ。

むしろ、喜んでいる。

「良いの!ピクニックは自分達で準備もするから、それも楽しいのよ」

「…リズが良いなら俺もいい」

シートをひきおわり、その上に座る。

「そうだ!メイド達とお弁当、作ってきたの。簡単なサンドイッチとピクルスだけど」

早速、ランチボックスを広げる。

木で編まれたかごに入ったサンドイッチは、卵やBLTなど、色とりどりで美味しそうだ。

飲み物は、紅茶である。

「美味しそう。さすがリズの手作りだ。全部、いただくよ」

「お腹を壊さない程度にね」

苦笑しつつ、サンドイッチを口に運ぶ。

自分で作っておいてなんだが、味は美味しい。

ルイも喜んでくれている。

(次々と食べてくれて…作ったかいある〜!そして横顔も麗しい…)

こっそりご尊顔に感謝する。

数十分後、かごいっぱいにあったサンドイッチは、見事空っぽになった。

ゆったりとした時間が流れる。

風が吹き、髪がなびく。

その時。

リーンゴーン…

どこからか、遠くで鐘の鳴る音が聞こえた。

日本にある寺のような感じではなく、どちらかというと、チャペルに近い音だ。

「いい音…近くに教会でもあるのかな」

「街中に確かあった気がする。ただし、教会じゃなくて塔だけど」

紅茶に砂糖を加えながら、ルイが答える。

そして、それをリズに渡した。

リズの分を用意してくれたのである。

(ちなみに、ルイはストレート派♩)

「…ふふっ鐘って言うと、結婚式を連想するね〜 いいなぁ憧れ!」

現世でも、今世でも結婚式はできていない。

現世はその前に死んじゃったから。

今世は、お披露目はしたものの、『結婚式』という感じのものはしていない。

貴族ではあまりやらないのだろう。

「確かにそうだね。……リズ、そろそろ帰ろうか。俺、やらなくちゃ行けないことができたから」

「そっかぁ…王子も大変だね…!」

少し残念だけど、仕方ない。

この世界では、私は隣国の姫(今はここの姫だけど)、ルイは王子なのだから。

「さぁ帰ろう。今日の夕食はリズの好きな物にするよ」

自然とルイは手を握ってくる。

リズも握り返した。

「やった!料理長のご飯、美味しいのよね〜」

(…リズが褒めた。リズに褒められるなんて、アイツには勿体ないことを…殺してしまいたい。でも、そんなことしたら、リズが悲しんじゃうなぁ)

それだけは嫌だ、とルイは思う。

「…今日、俺が作ろうかな」

少し拗ねたように言うルイ。

「えっやる事あるんじゃないの?…でもルイの手料理、久々だから嬉しい!」

「ふふっありがと…」

談笑しながらの帰り道は、どんな出来事よりも愛おしいと思うのだった。

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