第6話

第5話:嫉妬祭りのお茶会始まりました!?


「おちゃかい?」

聞きなれない言葉を聞き、思わず聞き返す。

「えぇ、お茶会ですよ。リズ様」

はい、と渡されたのは、真っ白な洋型封筒。

封字として、赤いシーリングスタンプが貼ってあるのは、いかにも貴族っぽい感じだ。

封を破らないように丁寧に開ける。


『 4月19日

 リズ様、この度はご結婚、おめでとうございます。

まだこの土地になれぬリズ様に少しでも知ってもらえるよう、お茶会へお誘いしたいと思っていますわ。

ぜひ、明後日わが家にいらしてください。

      クロエ・フォン・アヴェーヌ 』


「アヴェーヌ家と言えば名門貴族ではありませんか!」

後ろから手紙を覗き込んだメイドが、声を高くする。

「有名なの?この方」

「えぇ、それはもちろん。絹などの布製品に大きく携わる家門でして、ウィングランド王国の6割以上を納めています。リズ様の着ていらっしゃるドレスもアヴェーヌ家がお作りになった服ですわ」

メイドは勝ち誇った顔をする。

貴族のほとんどはこのアヴェーヌ家の作った服らしく、相当有名らしい。

現代で言う高級ブランド、だろうか。

「気にかけてくださるなんてお優しい方だわ。…お茶会、ぜひ行きましょう」

リズは楽しい時間を想像して、目を細めた。


***


リズが出かけてしばらく経ったころ。

「…リズが無断外出した」

何時になく、じめじめとした口調が、部屋に響く。

「はぁ、」

と、どうリアクションしたものかと曖昧に返事を返すのは、お付。

ルイの専属のお付であり、今まで、様々な場面で出てきている。

「…なぁ、お前はどう思う、ランス?」

「どうと言われましても」

お付こと、ランス・ハックは眉を寄せる。

5話でようやく名前登場。

これから苦労人になりそうな人である。

ランスは、心配と嫉妬で狂いそうな主人の顔を見た。

ルイは普段あまり、と言うか全くリズのことに関して弱音を吐かない。

なぜなら、自分がリズの中で1番愛されていると信じて疑わないからだ。

好きと言う自信がありすぎるヤンデレ男。

さすが、リズと結ばれるだけのために命懸けで転生しただけある。

それなのにお付がいるにもかかわらず話したのは、それだけ自分に話が行っていないことにショックを受けているようだ。

「俺に何でも話してくれる可愛いリズが…俺に何も言わずに行ったんだ、おかしいよね?まず俺に言うべきだし、まぁ言ったとしても出すわけないんだけど」

やばい。

と、ランスは思った。目がガチだ。

『俺を裏切ったんだから殺されても文句ないよね?』

と言いだしそうな目だ。

(貴方が愛が激重男だからでは?と言わなかった自分を褒めたい…!て言うか何聞かされてんの?俺。王子がこんな方だったとは…リズ様もさぞ苦労していらっしゃるんだろうな)

ランス、葛藤する。


「クロエ様…どんな方かしら?」

一方その頃。

そんなランスの心配を他所に、全く苦労せず、むしろ馬車の中で楽しんでいるリズであった。


「…リズが内緒で行くんだから…俺が行っても文句ないよね」

急に何か吹っ切れたように立ち上がるルイ。

「…!!??待ってください、行くんですか!?邪魔しちゃいけないでしょ…と言うかその前にルイ王子にはまだ仕事が…!!」

「そんな事、どうでもいいだろ。それより、リズの安全が第一だ。…俺以外に会おうとするなんて、余程出来の良い奴なんだろうな」

ギラギラと怒りに満ちた笑みを浮かべている。

普段、感情をむき出しにしない(リズのこと以外)のに、今回ばかりは誰が見てもわかるくらい、むき出しである。

(安全!?安全って…ただの淑女のお茶会だろ…)

「お、お待ちください!ルイ王子〜!!」

ランスはツカツカと足早に出ていく主人を追いかけていく。

胃がキリキリと痛む気がした。


当日。

リズは自身が乗っている馬車の他、4台をひきつらせ、アヴェーヌ邸へやってきた。

お付きに手を添えてもらいながら馬車を降りると、従者が門に立っていた。

王室ほど大きな城では無いが、それでも十分な広さの豪邸。

華美ではないが、一つ一つ物の質が良いことが感じられる。

「ようこそいらっしゃいました、リズ様。お嬢様は中庭でお待ちです」

「ありがとうございます」

丁寧な所作で出迎えられ、中庭へ移動する。

従者は中庭へ着くとお辞儀をして元来た道を戻って行った。

それをまた礼をして見送る。

「…貴方がリズ様ね?初めまして、今回お茶会を開いたクロエよ。よろしくお願いしますね」椅子に座って優雅に微笑むのは、クロエ・フォン・アヴェーヌ。

艶やかな空色の長い髪に、重色の猫目。

目元にほくろがちょこんとあるのが特徴の、美人系の人だった。

さすが、布を専門としている家門の娘だろうか。

ドレスから靴、装飾品に至るすべて、洗練されていた。

一つ一つ、質がよく、こだわりを感じる。

クロエに良く似合っていた。

(自分に似合うものが何か、良く分かっているんだわ…すごい)

関心しつつ、「本日はお招きありがとうございます、クロ工様」と挨拶をする。

…と、横でもう一人人がいることに気づく。

向こうもリズの視線に気づき、

「やあ」

と、片手を上げた。

王子様のような人だった。

この世界の令嬢にしては珍しい短髪ーーかと思ったが、後ろに長い髪をまとめている。

前だけ見ると、短髪のように見えた。

ワインのような、深みのある赤色の髪に、燃えるような太陽のオレンジの瞳。

服は女性的と言うより、男性的で、それこそ王子様のような格好をしていた。

(良く女子高で”王子”って言われる感じの方だわ。顔も所作もめちゃくちゃイケメン…!まあ、ルイくんには到底及ばないけど…)

「…リズ嬢、今回はお初にお目にかかる。ワタシはメーデイア・ウィリ・マーキスだ」

ポンと片手を胸に置き、自信に満ちた表情で語る。

(メーデイア…マーキス家って確か、日本でいう大名辺りのくらいの貴族、辺境伯?だっけ。つまり、こちらもなかなかいい所のお嬢さま…。うぅ、中身が平民出身だけあって、正真正銘の貴族だらけ空間、辛…)

「…リズ嬢?」

「…はっはい!?」

考え事をしていると、突如頭から声が降ってきて、バッと顔を上げる。

目が合うと、心配そうな顔から、にこやかな笑みに変わった。

サッと跪き、リズの手を取る。

「改めて挨拶を。今回の茶会で出会えたことを嬉しく思うよ。ーーどうぞよろしく」

そして、軽くリズの手の甲に口づけをした。

(なんか本物の王子様みたいでドキドキする…)

「…よ、よろしくお願いします、メーデイアさま」

「…挨拶も終えたことですし、早速お茶会といたしましょう!今日のためにたくさんお茶菓子を用意しましたの」

クロエのいう通り、美味しそうなお茶菓子がテーブルいっぱいに並べられていた。

マカロンやケーキ、種類豊富な焼き菓子に、軽食まである。

「わぁ!美味しそう…!」

「ありがたくいただくよ」

リズは取り合えず、目に入ったイチゴのタルトを手に取る。

普通、こういう場面ではメイドが各自取り寄せてくれるイメージだが、クロエが完全に”お嬢様”だけで気軽にお茶会を開きたかったからなのか、遠巻きに護衛が数人いるだけで、特に人はいない。

イチゴタルトを見る。

真っ赤な宝石のようなイチゴがたっぷり使われた小さなタルトは、皿の真ん中できらきらと輝いている。

少し食べるのが惜しいが、いただく。

フォークで綺麗に半分に割って食べると、イチゴのじゅわっとした果肉の触感と甘酸っぱい味、クリームの優しい甘さが口いっぱいに広がった。

(このタルトめちゃくちゃおいしい!貴族すご!)

「嬉しそうで何よりですわ。そのタルト、美味しいでしょう?この国でも有名なパティシエールのケーキですの。今度頼んでもらうといいわ」

優雅に紅茶を飲みながらクロエが言う。

「この焼き菓子も悪くない。ラム酒が良く効いていて最高だ」

メーデイアはラム酒と乾燥果実(ドライフルーツ)の入ったケーキを頬張っていた。

「そのお菓子もとっても美味しそう!ピクニックに持っていって食べたら最高ね」

リズも、メーデイアの感想に誘われて、ケーキを取った。

メーデイアの言う通り、確かに美味しい。

「あら、それは素敵なアイデアね。ピクニックと言えば、リズさまの邸宅の裏を少し登ったら、丘があるでしょう?あそこはすごく景色がいいわ」

丘。

確かに、そんな場所はあった気がする。

「いいじゃないか。今度ルイ王子も誘ってみるといい。喜んでくれるかもしれないぞ」

そういって、メーデイアはリズにフォークでさした一口サイズのケーキを差し出す。

見ると、メーデイアの取り皿に乗っているケーキの端が、一口分なかった。

あーん、してくれるらしい。

女子のなかでは別に自然な光景だ。

ただ、貴族の中にもあることに驚きで、少しためらいがちに口を開けるーー

「…リズっ…!」

冷静なような、でも少し焦ったような声が響いた。

聞こえるはずのない声が聞こえ、ぴたっと止まる。

メーデイアも、クロエも驚いた様子で声の主を見る。

「ルイ!?王子…どうしてここに…」

思わず立ち上がる。

「どうして、じゃない。無断外出だ。”私”に何も言わず、勝手に外出して…。私以外の男とあって楽しいか?」

他の貴族もいる手前か、一人称と口調を変えている。

リズの体を引き寄せ、メーデイアから遠ざける。

目は冷ややかだ。

「それは…!言ったらルイが心配しちゃうと思って…。それに、この方は男性じゃなくて女性よ。落ち着いて、よく見て」

ルイはジッと、本当にじっくり眺めた。

「誤解を招くような格好していてすまないね。余程、彼女の事がお気に入りのようだ」

メーディアは、特に気にする素振りもなく、ゆっくりと紅茶を飲み、嗜んでいる。

「……。すまない。私の勘違いだったようだ。…だが、その口ぶりは気をつけろ。リズを物品のような言い方をするな」

ぐいっと、更にルイの元に引き寄せられる。

狭いところにぎゅうぎゅう詰めにされた感覚だ。

(ルイくんがめちゃくちゃ嫉妬してる…♡♡♡めちゃくちゃいい匂いする…至福…!!)

リズは脳内でとろけまくる。

「…善処致します」

(…気にするところ、そこなんだ…)

苦笑気味に微笑むメーディア。

「…もう、私達は帰る。またお茶会に呼んでも構わないが、私にも連絡と、過度な接触は控えてくれ。”俺”のリズに触れるな」

もう何も言い残したことはない、そういうかのようにルイはリズの手を引いて足早にその場を後にする。

「ルイ…!」

(もうっ独占欲強いんだから…そんなとこも好きだけど、さすがに皆さんに失礼だったから、あとで謝罪の手紙、書かないと…!)

感情をごっちゃにしながら、リズはルイとともにその場を後にしたのだった。

「…ものすごく、愛妻家ですわね」

「ふふっ。嫉妬にまみれた男は美しくないが、なかなか良いものじゃないか」

終始、ぽかーんとしていたクロエとメーデイアだった。

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