第21話
刑事さんたちも私の話がそれほど重要な事柄ではないと判断したのだろう、世間話を手帳にメモをすることはなかった。
「分かりました。確かにあなたの供述に嘘はないようですね。
これは片岡 陽菜紀の手帳に記されていたメモです」
と久保田刑事さんが今度はタブレットを出し、そこに映し出された画像を覗きこむと、四角く囲った日付の昨日の欄に19:30~灯理と女子会♥と陽菜紀の字で書き記されていた。
「現物は鑑識に出している最中ですので」と久保田刑事さんが添えてくれたけれど、またも専門的な用語『カンシキ』のワードが私の中を不快に満たす。
「…先ほど刑事さんが仰ってましたけど……その…陽菜紀の死亡推定時刻が……19時半~21時の間だと、お考えなのですか」
「はっきりとした時間はまだ割り出せていません。今は司法解剖中なので。ただ我々はそう考えています」
司法解剖……そんな―――……
陽菜紀の自慢だった……それでいていつも丁寧にケアしていたきれいな体が解剖されちゃうなんて。
今になってようやく涙が目がしらにこみ上げてくる。目がしらが熱くなって、涙が出そうになったが慌ててその場所をつまんで顔を逸らす。涙と連動しているのだろう、鼻水も出てきて慌てて鼻をすすり、
「……すみませ……」
口に出た言葉は鼻声でくぐもったものになった。
「いえ。突然のご不幸、心中をお察し申し上げます」と久保田刑事さんが気遣ってくれた。
鼻をすすりながら、合間に
「私……昨日19:30に陽菜紀のマンションに行ったんです」
「ええ」と答えたのはやはり久保田刑事さん。
「あのとき、もしかして陽菜紀はまだ生きてて……私が管理人さんにでも言って、無理やり部屋を開けていれば……助かったかもしれないんですよね…」
とうとう堪えきれず涙がこぼれた。
「それは分かりません」
と、そっけなくいっそ事務的な口調で言ったのは曽田刑事さん。
「それを調べるのが我々の仕事です」とも。
親友の命を突如奪われた女に対して掛けるべき言葉ではない、とちょっと憤ったが、怒ったところで陽菜紀は戻ってくるのだろうか。
陽菜紀はそう、
永遠に戻らない。
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