第20話
私は、陽菜紀とは幼稚園から高校まで同じの、いわゆる幼馴染だと言うことを話した。事実、互いの実家は家3軒を挟んだご近所さん同士だ。お互い就職やら結婚やらで実家を出たのは、確か私の方が先だった筈。大学卒業後だったから私が22のとき。
高校を卒業した後も何かと家を行き来していた私たちだが環境が変わったせいか、その頻度は自然に減っていった。一人暮らしをはじめるとさらに半減。
その約三年後に陽菜紀は結婚して今のマンションに引っ越した。
私の話を聞いた刑事さんたちはそれぞれ手帳にメモをしていたが、曽田刑事さんの方がさっきまで険しかった視線をふっと緩め
「陽菜紀さんは誰かに恨まれたりするタイプ?」
と、ちょっと場違いな感じできさくに聞いてきた。
「さあ、分かりません……」
本当のことだ。陽菜紀が殺される程誰かの恨みをかっていたなんて信じられない!とは言い切れないし、あの子は昔から女の子に僻まれる性質で、とも軽々しく言えない。
「何かトラブルがあったとか、聞いてません?」と曽田刑事さんにまたも聞かれ
「……いえ。そこのところはっきり分からなくて……前日も陽菜紀からメールを貰って“相談したいことがある”とは言ってましたが……それが事件に直接的な関係があるのか私には…」
おずおずと言うと
「関係があるのかどうかは我々が判断しますよ。そのメール見せてもらっていいですか?」
と、さっきのきさくな感じから一転、またも厳しい口調に戻った曽田刑事さんが私の目をギロリと睨んだ…ように思えた。私はまたも慌ててバッグからスマホを取り出そうとしたが、動揺していたのだろう、スマホだけを取り出す筈だったが、化粧ポーチやら手帳なんかの小物も出てきてバッグからすり抜け床に落ちた。
「す、すみません…」慌てて拾おうとしたが、向かい側に腰掛けた曽田刑事さんがそれらを拾うのを手伝いながら口を開いた。
「女性は荷物が多いものですね。私なんてほら、手軽なもんですよ。警察バッジと手帳さえあればね」と、私の緊張を解いてくれようとしているのが分かった。私はそれに曖昧に笑って返した。
このときはじめて愛想笑いをするだけの余力が自分に残っていたことに驚いた。
化粧ポーチを拾いながら曽田刑事さんが私のパンプスに視線を落とすと
「ほっそいヒールですね。折れやしませんか」
曽田刑事さんに指摘されたように今日のパンプスは10㎝のピンヒールだ。事件に関係性がないただの世間話にまたも緊張が緩む。
「実は折れたことが……一度だけあるんです。成人式の後の同窓会みたいな…会に行く途中、道路の排水溝の溝に引っかけてしまってポキっと……結局、同窓会は諦めました」
明らかに事件に無関係だろうことを、私は何故だか必死になって喋っている。
じゃないと、今にも全身の力が抜けて崩れそうだったから。
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