第17話
名前を呼ばれたとき、少しばかりの違和感を覚えた。
確認するようにわざとゆっくり喋っている感じだ。
二人組の男性、一人は四十過ぎの年齢だと思われ、まるで任侠映画に登場してくるような人相が悪く、髪はボサボサ、無精ひげが目立つちょっと清潔感の欠ける人で、恐らく180㎝はあるだろう大柄な男性。少し筋肉質なのだろう、よれよれのスーツが窮屈そうでもあった。
もう一方の人は三十代の前半、こちらはネクタイの曲がりさえ見えないきっちりした…まぁどこにでもいる青年、と言う感じだ。
一見して二人に共通点はなさそうに見える。
声を掛けてきたのは四十代の無精ひげの方で、どことなく立ち止まらずをえない、その声で呼ばれると抗えないものを感じた。口調がきついと言うわけではない。声が大きいと言うわけではない。
ただ、しっかり
そう、しっかり響いたのだ。力強く。
ナンパ?にしては変だ。
二人は酔っぱらっていると感じではなかったし、不確かだが私の名前を知っているようだ。
「あの…?」目だけを上げて不審そうに彼らを見上げると
「失礼。私どもはこうゆう者でして」とすぐに無精ひげの方が言い、くたびれたスーツの胸ポケットに手を入れもぞもぞと手を動かしたのち黒い何かを取り出した。動作はゆっくりなのに喋り方はそつがない。その仕草は酷くアンバランスだった。
だけど彼が取り出したその黒い何かを見て、私は目を開いた。
それはドラマや映画の中でしか見たことのない、昇る朝日と陽射しをかたどった紋章。
警察バッジ
だった。
「警視庁捜査一課の
「同じく
と、同じように手帳を提示していた若い方の刑事……さんに聞かれて私はぎこちなく頷いた。
「はい、友人……です。あの…陽菜紀が何か……?」
嫌な予感と言うものが一瞬で過った。
刑事さんたちは一瞬顔を見合わせ、だがすぐに私に顔を戻すと、無精ひげの……曽田と名乗った方の刑事さんが口を開いた。
「昨夜、亡くなりました」
東京都心に比べたら小さな規模だと思うけれど、それでもこの場所は『街』と呼ぶには相応しい場所で、大通りをひっきりなしに車が横行している。せっかちなドライバーがあちこちでクラクションを鳴らしているのが聞こえて、人の喋り声も多い。
なのに
その声はとてもよく透った。
亡くなった――――……?
陽菜紀が―――……?
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