第9話


陽菜紀の『相談したい事』の内容が分からなかった。だって前回会ったときそれらしい話はしなかったから。



特に深刻な悩みを抱えているようにも思えなかったし、かと言って新しい出来事があるようなことも言ってなかった。



だからその『相談したい事』と言うのがここ一か月の間で突発的に起きたことだと推測する。



会社を定時で退社し、陽菜紀が住んでいる高級分譲マンションに向かう間、あれこれ想像を巡らせた。



ご主人が浮気した?



子供ができた?



ありとあらゆることを考えたけれど、どれもしっくりこない。



大体にしてご主人が浮気したのなら、わざわざ私になんて相談しない。陽菜紀は昔からそうゆう子だ。



プライドが高いと言えば聞こえが悪いが「浮気された」と言うことは少なくともご主人の愛情を一心に受けられなかったと捉えられる。陽菜紀はそんなこと絶対自分から認めない。




陽菜紀はそう言う子だ。昔から一緒にいるのに大事なことは何も教えてくれない。



結婚することを聞いたのもそうだった。ある日突然結婚式の招待状が送られてきてはじめて電話をしたら「そうなの~、何か流れで~」と言う感じで軽く報告されたのだ。



ある意味さっぱりしてはいる。派手に自慢するタイプでもなければ、かと言って暗いことを重大視することもない。




だから



『私、人を殺したの』



と、淡々と言いそうだ。



まぁ殺人となればさすがに私もびっくりするけれど。でももし殺人を犯しても





きっと―――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る