第8話
自分の現状を考えると、早々に結婚して幸せを築いている陽菜紀が羨ましかったのかもしれない。
彼女とは今では頻繁に連絡を取り合う仲ではなくなった。あんなに仲良かったのに、私が就職して新しい“社会”ができると、徐々に濃密な関係は薄れていった。
筈なのに、彼女がアップしているSNSをいちいちチェックしている私。
って言うか陽菜紀、ケータイの調子が悪いって言ってたの一か月も前じゃない。未だに直してないのね。
陽菜紀は幼い頃から人一倍華やかな顔立ちだった。成長していくとその容姿に加えてモデル並に背が高くなって、おまけに抜群なプロポーション。よくモデルに勘違いされることもあった。
陽菜紀も自分の容姿に自信があるのかSNSにはよく誰々とどこでランチした、とか旦那さんと豪華ディナーをした、とか。今日の手料理は何、とか自撮りの画像を載せて短い文章がくっついていた。
それを見て羨ましい、と思ったりちょっと妬んだり。でもその幸せを壊したい、と願ったことはないし、奪いたいとも思わなかった。
だって私は私。
私はどうあっても陽菜紀にはなれないもの。
陽菜紀からメールがあったのは一カ月ぶりだった。最後に会ったのは確か街中にあるちょっとお洒落なイタリアンレストランで“女子会”と言う名の飲み会をしたときだった。
一年で一番寒い時季で、陽菜紀はラビットファーがふんだんにあしらわれた淡いピンクのコートに身を包んでいた。
陽菜紀の栗色に染められた長い髪は毛先がふわふわに巻いてあって、流行りのメイクはちっとも浮いてない。女として、完璧だった。
そこで会話した内容はあまり覚えていない。確か……あまり実のない会話だったんじゃないだろうか。最近の出来事、流行っているドラマ……私は変わり映えしない仕事の愚痴を、陽菜紀はご主人と出かけたデートスポットの話を、していた気がする。
あ、そう言えば私の初恋のヤマダくんの話もしたな。
でもヤマダくんの顔なんて全然記憶にない程、私の想い出は薄れてる。
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