第6話


20XX年 3月22日



サクっ!



まな板の上でズッキーニがきれいに真っ二つに切れた。切れ味は抜群だ。



それに満足しながらどんどんズッキーニを輪切りにしていき、煮込んだトマトソースの中にそれを放り入れる。



すでにダイニングテーブルにはサーモンのマリネ、メカジキのソテー、スパゲッティカルボナーラが出来上がって並べられている。



それを満足げに見渡し、ついでダイニングテーブルの横に転がった






死体





にうっすら笑いかける。



「あんたがいけないんだよ」



そう言ったが当然反応はない。ゆるく巻いた栗色の髪はフローリングの上に散らばり、流行りの花柄模様をあしらったワンピースの裾からすんなり伸びた脚は投げ出され、大きなアーモンド形の形の良い目はこちらを見ているのに、目が合うことはもう二度とない。



だって“彼女”の目は何も映してないから。



ただ濁った水晶体を天井に向けて、投げ出された両手は何かを掴もうとしていたが、結局何も手にしていない。スマホ以外。






そう、あなたは何も手に入れてないのだ。






浅はかで傲慢で、自己顕示欲の塊の、この女が大嫌いだった。



部屋の隅に彼女が使用していた立派な三面鏡が置いてある。



生気を失った死体の頭頂部に先ほど、部屋のインテリアだった女神のオブジェで殴りつけた際に飛び散った血の飛沫が床に残されている。



そのオブジェは愛の女神、アプロディーテの姿をしていた。瀟洒な趣味だけは認めてあげよう。



そのまだ渇いていない血液を手袋の上からなぞり、三面鏡の前に立つと“L★”とゆっくりと書きこんだ。





「これで




これで完全な四角になったね」






部屋に食事の匂いが満たされ、満足げに頷き彼女が握りしめていたスマホを取りあげ



部屋を後にした。



事件は終わりじゃない。





はじまったばかりだ。



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