第7話

mission6: human body class2


「…まずはそうですね。人体の比率から学んでいきましょうか。」

ホワイトボードにマジックでサラサラと絵が描かれていく。

こうして僕と彼女の異質な授業が始まったのだった。


***


「…すみません。少し失礼します。」

しばらくし、彼女は言葉を切った。

10時を過ぎていた。

今日は人体の比率や長さ(フィートなど)の話だった。

トポトポと紅茶を注ぎ、飲む。

これだけ話せば喉は乾くだろう。

そのまま枯渇して死ねば良いのに、と思ったが、自分の手で殺さなければ、と思い直し、首を降った。

それと同時に、満足したのか彼女の説明が再び始まった。


***


「…ご主人様、授業で分からないことはございましたか?」

ボードの文字を消しながら彼女は聞く。

「…特にない。」

これくらいで躓いては彼女を殺せない。

「…そうですか。分かりました。」

彼女は続きを話し始めた。

「…続いては、人体をくまなく観察するためにはどうすればいいかと言う事です。ある場所を探し出すのに緯度、経度、標高が必要なように、人体の各部の位置を正確に示すには上下、左右、前後の"三次元座標"と言うものが必要になります。今は様々なスキャン技術などでメスなど必要ないんですけどね。私達にとっては大切な基礎なので。」

ニコッと笑い、様々な人を描いている。

"私達"

何を含めて言っているのかは考えなかった事にして、授業に集中する。

これは、あくまで彼女を殺すためだ。

前を向くと、縦に真っ二つに分かれた形が出来ていた。

「…次は、矢状面、体を左右に分ける断面です。これらは解剖学で使われる断面です。」

頭の左右から綺麗に分けられ、分かれた断面。

絵だから良かったが、本物を見るとグロテスクだ。

「…ちょっと待て。これは本当に殺すために必要なのか?嫌がらせとかじゃ…」

「嫌がらせではございませんよ、ご主人様。これは人体を良く観察し、人体を知るのにとても必要な事です。…言いましたでしょう?ナイフを使うにしても、体を知らなければ何も出来ない…効率よく殺せないと。」

確かに。

授業を始める前に彼女はそう言っていた。

「…さ、不満は後で沢山聞きますから、今は授業に集中して下さい。習う事は沢山ありますし、実技ともなると、私に追いつくには血反吐を吐くような努力が必要ですので。」

サラッと恐ろしい事を呟きながら、授業は再開する。

「…なるほど。」

メモを取りながら僕は頷いた。

ここまで人体について詳しく知った事は初めてだ。

「…後、もう少し今日やっておきたいのですが。良いでしょうか?それとも休憩になられます?」

小首を傾げ、メイドが尋ねる。

時刻を見ると10時半だった。

「…別にいい。進めたいなら進めておけ。」

ぶっきらぼうに呟き、そっぽを向いた。

「…かしこまりました。お言葉に甘えて進めさせて頂きます。」

その言葉に、僕はペンを握り直した。


***


「話は以上となります。どうでしたか?少しは詳しくなれたでしょうか?」

「…あぁ。十分過ぎるほど。」

嫌味を交えて言う。

「左様でしたか!良かったです。ご褒美におやつをお持ちしますね。…少しお待ち下さい。」

彼女は僕の嫌味を全く気にせず、おやつまで用意すると言って書庫から出ていった。

「…ふー…」

一人きりになり、僕は息を吐き出した。

感想は、なかなか真面目な授業だった、と言うところか。

それはもう、詳しすぎると言うくらいに教えこまれた。

これは後で復習しておかないと、着いて来れない気がする。

出来なくても、出来なければいけないのだ。

彼女を殺すためには、それ相応の技術と知識が必要である。

だから、どんな事でも耐えてみせるし、学んでみせる。

改めてそう、決意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る