第5話

mission4: study hours!


カリカリカリカリ

静かな空間に、筆を走らせる音が響く。

僕は今、書庫で勉強している。

書庫と言えど、図書館のようなもので、たくさんの本がある。

全部父が集めたものだ。

古典から薬学まで、様々な分類の本がある。

何段もある本棚のうち、まだ二段ほどしか読めていない。

ここは吹き抜けになっており、所狭しと本が並び、覆い尽くされている。

一体何万冊の本があるのか、知る由もない。

その中に、読むための机と椅子があるため、そこで勉強している。

まさに勉強に最適ーーそう、思っていたのに。

「…あら、ご主人様?勉強ですか、偉いですね。」

何で彼女がここに来るんだ。

言い返そうとして彼女の声のする方に振り向く。

「…!!」

彼女は僕の鼻先に触れるくらい近くで覗き込んでいた。

片手でお盆にティーセットを乗せている。

「…お茶を持ってきましたから、休憩にどうぞ。お茶請けはバタークッキーですよ。」

言い返せない僕を無視してカチャカチャと机に置いていく。

「…そう言えば疑問だったんですけど、生活はどうなされてるんです?お金…働ける年ではありませんよね。」

「…なんでお前にそんな事話さなくちゃいけないんだ。」

勉強しているから、さっさと出ていって欲しい。

「…何でって…私のご主人様ですよ?知りたいに決まってるじゃありませんか。それに、これは殺しと何も関係ありませんよ。」

ニコニコとメイドは話す。

それに、と続ける。

「お話してくれないとここからどきませんよ。」

それだけは絶対に嫌だ。

こちらを見つめ、話を待つ彼女を見る。

…なんだ、詮索のつもりか?

いや、彼女の様子からして、どうやら純粋な疑問のようだ。

「…叔父さまがお金を出してくれてるんだ。父が残した遺産はあるが、叔父さまがそんなものを使うよりは、と毎月余るぐらい金をくれるんだ。」

…まぁ、遺産目当てだろうけど、と付け足す。

叔父さまは無口であまり金とか事業に興味がなさそうだけど、誰よりも興味がある事を僕は知っている。

次期当主になりたがっていることも。

父が留守にしている日、叔父さまが来て父の部屋を漁っているのを見たからだ。

ああ言うタイプが何をするか一番分からないから怖いな、と幼いながらに思った記憶がある。

「…そう言う事だったのですね。大変ですねー。」

他人事のように言うが、お前が殺したのにも関係があるんだぞ、と思いながら言葉が出かけるのを飲み込む。

本当は今すぐにも殺してやりたい。

けれど、初日に言われたように、僕では彼女を殺せない。

あの日の彼女の静かで冷たい気迫は、今思い出しても身震いしてしまう。

ギリッ

怒りと今すぐにでも出来ない悔しさで、思わず歯ぎしりをする。

そのまま勉強に集中した。

しばらくして、顔を上げ、後ろを向くともう彼女はいなかった。

斜め前にある紅茶はまだ、湯気を立てていた。

もしかして、僕の集中加減を予想して湯加減を調整したのだろうか。

…どこまでできる奴なんだろう。

読めない人だ。

(…カモミールティーか。)

効果にリラックスがあるらしい。

気に食わない。

そう思いながら、一口飲んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る