第3話
mission2: Is she a maid ?
彼女は夜霧 萃と言った。
金髪のロングヘアに、同じく金色の穏やかそうなパッチリとした目。
典型的なメイド服。
中型の革製の鞄。
そこまで大きくないので、荷物自体少ないのだろう。
彼女は今、大広間に立ち、部屋をキョロキョロと楽しそうに見渡している。
先程の発言をする人にはまるで見えなかった。
家族を殺した殺人鬼が僕の家にいるという何とも複雑な気持ちを持ちながら、取り敢えず逃がさないよう家に入れる。
「…そこの…椅子に座ってくれ。」
「…かしこまりました。」
目を閉じる形でニコッと微笑み、一番近くにあった椅子に腰掛ける。
ワインレッド色のカウチだ。
フカフカで高級感を醸し出している。
実質高級品だ。
彼女はピンとした姿勢で僕を見ている。
…僕が話し出すのを待っているのだろうか。
生憎そのような落ち着きを僕は持っていない。
今にも、殺しそうな勢いなのに。
それを抑えるのに忙しく、つい呼吸が荒くなる。
「…お前が…父や母を殺したのか?」
彼女は一瞬目を開き、固まった。
そしてすぐ、片手を唇に当て、笑う。
「…はい。私が殺しました。」
何も悪いことをしていない、と言うように平然と、淡々と述べた。
プツンッ
頭の中で何かが切れた。
ほんの少しだけ保っていた理性が一気に弾ける。
我慢ならなかった。
「…うわぁぁぁぁぁ!!!」
座り、微笑む彼女目掛けて拳を握りしめながら猪突猛進する。
が。
僕は彼女に"触れる"ことさえできなかった。
そして気づけば、彼女は目の前にいなかった。
「…え」
疑問に思ったその瞬間、首筋に冷たい感触が伝わる。
静かな殺気が流れる。
「……っ!」
僕が呆然としていると、僕の"後ろ"から夜霧が歩き出てくる。
今、何が起こった?
「…私は素早くご主人様の後ろに周り、首筋にナイフを当てました。命の危険はございません。…ご安心を。」
どこが"ご安心"なのか分からないが、やはり彼女が只者ではない事が分かった。
そして良く考えれば、彼女は僕が突っ込んできた時にカウチの"ヘリ"を軽く蹴りあげ、その反動でカウチの後ろへ着地する。
そして1秒も満たない間に後ろへ回ったーー
目にも止まらぬ早さ。
…早すぎる。
「…これで分かったでしょうか?私の力は。これくらい、簡単に出来てしまいます。」
ナイフを布で拭き、鞄にしまいながら言う。
「…何が言いたい。」
「…貴方は私を殺したいほど憎んでいる。…だけど、貴方では私を殺せない。だって私は強いから。」
今までとは違う、冷徹な笑みを浮かべ、穴が空くかと言うほど僕を見る。
「……。」
あまりの"凄み"に、思わず黙る。
これが…家族を殺した人…。
「…お分かりいただけたでしょうか?殺したいなら、殺しの極意を私から学べ、と言う事です。」
完全に、話すだけでは終わってしまった。
「…では、早速明後日からやりましょうか!」
パンッと両手を合わせ鳴らした。
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