第3話


あたしはポカンと口を開けて、桜の木を見た。



「お嬢の見間違いじゃありやせんか?それとも夢か…」



見間違い?夢?



そうかもしんねぇ。



いつかやらかすんじゃないか、と思ってはらはらしてたからその不安が幻影を見せたのか。




「あたしが白昼夢でも見たって言いたいんかい!」



あたしは八つ当たりでマサの胸座を掴んで強く揺すった。



「お嬢!もうお勤めの時間でっせ?いつまでマサさんとじゃれてるんすか」



廊下の曲がり角から、拓也たくやことタクがひょいと顔を出す。



あたしはマサの胸座から手を離すと、二人をきっと睨んだ。






「てめぇら!お嬢って呼び方止めろって前から言ってんだろ!!




それから学校のことを“お勤め”って言うな!!!」





「「へい!すいやせんでした」」



マサとタクが慌ててひょいと頭を下げた。







読者のみなさんはそろそろお気づきかと思うが、あたしんちはヤクザ。



それも関東一帯の組を統べる青龍会十代目当主は、あたしの叔父貴でもある。





ちなみに九代目当主はあたしの亡くなった親父だ。




母親と親父亡き今、一人娘のあたしはこの青龍会の構成員たちに、大切に育てられている。





と、言いたいところだけど、幼い頃から血の気の多い野郎共に囲まれて育ってしまったためか、こんな男勝りに育ってしまったあたし。




こんなんじゃ、好きな人にも見向きもされねぇ。




ってのが、今のところの悩みでもある16歳、高校二年生だ。



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