第59話

昔何度となく繰り返し繋がれたその手を眺め、まるで初めての事のように私は緊張していた。




彼が雨に濡れながら振り返りいたずらに笑いかけてきて、その瞬間、あらゆる雑音が消え去り、世界はサイレント映画の中のように美しい静けさに包まれていくようだった。


流れていく景色は雨に洗われキラキラと輝き出し、音をなくすほどの視覚的美しさの中で私は胸に込み上げてくる感動に息をする事さえも忘れてしまいそうだった。





6年後の未来はこんなに美しかっただろうか。



そう感じられるのは、大人になればなるほどくすんでいく世界に染まってしまったせいかとも思ったが、これはきっと将暉がここにいるからなのだろう。




彼が居る景色はどんな時だって煌めいていた。



彼が跳ね上げる靴の水しぶきや、次第に雨に透ける彼の背中や、強く握られた濡れた手の感触が私を高校生の私に戻していく。


いつまでもこのまま彼と一緒にいられたらどんなに幸せだったのだろうかと思った。




純粋な恋だけにただがむしゃらに突っ走っていられた高校時代の私。

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