第57話

しかし驚く事に私の財布の中には現金という現金がほとんど入っておらず、ジュースが1本買えるかどうか、くらいの小銭しか持ち合わせていなかった。


高校生の世知辛さを改めて実感する。


大人になった今なら、コンビニのビニール傘なんて雨が降るたび使い捨てのように買い直していたというのに。


それを覗き込みながら将暉も



「俺も今のカフェ代でもう金ないや」



と呟いた。



私たちは途方に暮れながら一向に降り止む気配のない空を見上げている。


でも、そんな瞬間でさえ、隣に将暉がいると思うだけでいつまででもこうしていたいような気持ちになった。



・・・今だろうか。


この雨に、2人で並んで空を眺めている今。


これは割とロマンチックではないだろうか。




色々と考えてはみたものの、時間も、お金もない今の私には大掛かりな告白をする事はできないけれど、やはり告白をせず付き合わなかったという未来だけはどうしても選びたくはなかった。




将暉との沢山の思い出が消えてしまうのは、彼と別れてしまった未来よりもきっともっと悲しいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る