第52話

「あ、ありがとう」



私は携帯をバッグに戻しながら、途端に速まる鼓動を感じた。



「本当えりぃってここのチョコクロ好きだよな」



私たちは出会ってからこの2ヶ月ですっかり親しい仲になっているようで、昨日出会ったときよりも彼は柔らかな表情を浮かべて話しかけてきた。




高校の頃、学校が終わるといつもこうして顔を合わせていたのを思い出して無性に懐かしい気持ちになった。


将暉は私の前の席に腰をかけると、左腕で頬杖をつき、ミルクティーをストローでクルクルとかき混ぜ始める。


彼が買ってきたクロワッサンを見て、大方予想はついていたけれど、私は一応彼に尋ねた。



「・・・ここって、どこだっけ?」


「どこってどういうこと?」



彼はミルクティーから私に視線を移した。



「・・・ちょっと何かよくわかんなくなっちゃって」



相変わらず私は怪しまれないように聞くのが下手だな、と思いながらごまかすように肩をすくめた。



「どこもなにも、いつも来てる駅前のカフェじゃん」



私はそれを聞いて、ここが過去である事を改めて確信した。




なぜなら高校の頃、将暉とよく訪れていた2人の家の丁度間に位置するこのカフェは、2015年の現代にはすでに存在しないのだ。


ここは今ではガソリンスタンドに変わっている。

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