第53話

だから何年か前にここがなくなってしまった事を通りがかりに知ったときは、青春を奪われてしまったような気持ちになり、またこうしてこの店に来られるときが来るなんて思いもしなかった。



「ここ、なんでなくなっちゃったんだろう」



私は思わず独り言のように呟いた。



「どういう意味?」


「あ、なんでもない」



将暉は怪しげに私を見つめてから、ふと思い出したように声を上げた。



「あ!みて、みてこれ!」



そういって彼は何やらズボンのポケットから取り出し、私の前に差し出してくる。


彼が興奮気味に見せてきたのは古い型のiPhoneだった。



「え?なに?」


「何ってこれ!iPhone3GSだよ!速攻ゲットしちゃった」



彼は自慢げに鼻息を荒くしている。



確かに高校3年の頃からクラスで半分ほどがスマートフォンに乗り換えていった事を思い出した。


私はなんとなく慣れなくて大学生になるまでガラケーを使っていたのだけれど。

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