第36話

「これ、俺のアドレスだからメールしてよ。せっかく知り合えたんだし」



彼はそういって私に微笑みかける。



彼のこんな笑顔を見るのは本当に久しぶりで、胸の奥からこみ上げてくるものを私は必死に我慢していた。



「ねえ、ごめん今何時かわかる?携帯電池切れてて」


「え、えっと」



私は自分の携帯を開いて時間を確認した。



「18時31分」


「わ、もうそんな時間か。じゃあ、俺これから用事あるから行くよ。またね、えりぃ」




彼はバッグを背負い、手を振って去っていく。


思わず引き止めようと胸の前まで出た右手は、結局彼に気付かれる事はなかった。

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