第20話

将暉はそこのすぐそばに住んでいて、迎賓館の事についてやたらと詳しかった。



“この辺には富士山から皇居に流れる龍脈が通っていてすごくいいパワースポットなんだ”



彼はよくそんな事を口にしていた。


パワースポットというものに対して興味も関心もなかった私は、彼がそんな話を始める度にどこか気でも病んでいるのではないかと心配になった。



今となっては本当にそうだったのかもしれないと思う。



なぜなら私と別れる間際の彼は、私には言えない何かを抱えて苦しんでいたように思えてならなかったからだ。



当時の私はそれに対して、あえて触れないようにしていたように思う。


触れてしまえば何かが終わってしまうような、そんな漠然とした恐怖を感じていたのかもしれない。



だからそんな頼りない私を捨て、彼は私ではない別の人を好きになったのかもしれないのだけれど。



私は恐る恐るあのパンドラの箱の中にその絵葉書をしまって、随分片付いたクローゼットの奥にまたそれを戻した。

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