第51話


ちょっとズレてるのは分かってたけどね。



なんて言ったってアイドルさまだし。



でも





何なのあいつ、何なの…






寝る前のナイトクリームを顔に塗りながら私は大きな鏡台の前でブツブツ。



薔薇の花束やアカペラのバースデーソングに一瞬気を取られたけど、まるで自分の部屋のように自由だし、



そもそも七年前何故来なかったのか理由を言え!つうのよ。



「独り言?」



いつの間にシャワーからあがってきたのか、



鏡の中に禅夜の姿が映っていた。



出会った当初は黒い髪だったのに、今はアッシュ系の茶色い髪に一房、鮮やかなゴールドのメッシュが浮かんでいる。




その髪がしっとりと濡れていて、シャワーからあがったばかりなのかバスローブ一枚を身にまとっただけの彼からシャンプーの香りに混じって、七年前にはなかった大人の色気が香ってくるようだった。



老けた、と言う印象は少しも浮かばなかったけれど、代わりに七年の歳月が不思議な色気を彼に与えたようだ。



ドキリとして、バスローブから覗いたくっきりとした鎖骨から目を逸らし、私はそれに何も答えず



「ちゃんと髪を乾かしなさい。じゃないと痛むわよ」



とそっけなく答えながら手を動かせた。




七年ぶりに会話を交わしたって言うのに、情熱的なことを言えないのは可愛くない女なのか



それとも七年前の言い訳すらしない男に腹を立てているからか―――



でも本当のところは





これで彼に対する気持ちが冷めてくれれば良いと思った




けれど



思いがけない彼の登場に、緊張している。



ちらり、とテーブルに乗せた大きな赤い薔薇の花束を見つめる。



何本あるんだろう。



きっと五十本以上あるだろうな。



マネージャーか誰かに用意させたのだろうか。



疑われなかっただろうか、咎められなかっただろうか。




嬉しいのが半分、余計な心配が半分。



私の中は複雑だった。



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