第50話
彼はアカペラでバースデーソングを歌ってくれて、薔薇の花束を私に突きつけてくる。
言い表せない感動と驚きに目をまばたいて、思わず涙が目頭に浮かぶ。
あのチケットはただの偶然だと思った。
だって彼が私の誕生日を知るはずなんてないし。
「どうして……私の誕生日を…」
「環のアシスタントから聞いてて知ってた。今あの人、人事部に居るんだって」
アシスタント…ってああ…
「三十歳♪」
彼は立ち上がり、大きな目を細めて私の頭をぽんぽん。
「歳のことは言わないで」
思わず唇を尖らせて、彼の眉間に指をつきつけると七年前と変わらない仕草で寄り目。
でも次の瞬間片目だけを細めて眉を動かす。
「環は変わらずきれいだぜ?気にすることなんて何もないし」
きれい
……私より整ったきれいな顔立ちした男に言われるのはいかがなものか。
でもそのきれいな顔は真剣そのもので、「きれい」と言われるのを素直に受け取っておくことにした。
「ふー、あちぃ。ライトとダンスのおかげでめちゃくちゃ汗掻いた。
シャワー借りていい?」
そして彼も何事もなかったかのように普通。
七年前の言い訳も何もせずにもう長年も付き合ってる友人のように気軽に。
私が何か言う前に彼はマイペースにバスルームに入っていき、私は呆然としたまま彼が出るのを待つしかなかった。
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