第47話


シャワーからあがって、一人の部屋でのんびりテレビを見ながら買ってきたビールを飲む。



くだらないバラエティ番組が終わり、持ってきたノートPCを開いて私はテーブルで仕事をはじめた。



これが最後の原稿になるかと思うと、自然力が入る。



「今日の一枚」は誰か分からないけれどアマチュアカメラマンが写した、白い壁に木製の椅子が一つだけ。



赤いビロードを敷き詰めた椅子が白い壁の中、どこかアンバランスに浮き上がっている。




いつもは風景画を載せるけれど、この椅子に何故か目が留まった。



いつも私は…私たちは空席を埋めたかった。



今となってはそれはすれ違いなのかどうか分からない、けれど



その席に座ってくれることを願っていた。






今私が望んでいる席。



それは彼の胸の中、腕の中、心の中―――彼の特別席に座りたい。




私の特別席は七年間、ずっと空席のまま。



願わくば、彼がその席に座ってくれることを―――





そんな思いで原稿を書いていると、





テレビはいつの間にかニュースに変わっていて、表示されていた時間を見ると



23:56



になっていた。



「やっぱり来ない……かぁ」



諦めてパソコンを閉じようとしたそのときだった。



それほど大した失望なんてない。



これで良かったのだ。七年目のけじめをつけるには現実を知るのが一番。



私は空になったビールの缶をゴミ箱に放り入れ、二本目の缶を冷蔵庫から取り出した。









ピンポーン…






部屋のインターホンが鳴って私は思わず目を開いた。




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