第35話


私は慌ててワイヤレスイヤホンを耳から抜き取り、泣いていたことを悟られないために目元を拭いながらきょろきょろ。



「こ、こんなところに気軽に来ていいの!



誰かに知られたら」



「暗いし、俺なんて誰も気づかないって」



そうは言うけど……



「それよりも、泣いてたの?」



禅夜が私を覗き込みながら、大きな目を少しだけ細めて眉を寄せた。



「な、泣いてなんかない」



慌てて否定するも



「また強がっちゃって~会社で苛められた?



愚痴なら聞くよ?また前みたいに喚いても全部聞くから」



にこやかにそう言われて、ありがたかったけれど



「できればあれは忘れてほしい」



私はがくり。




「忘れられないよ。だって強烈だったし。



女に足蹴にされたのもはじめてだしね」



「今度は平手打ちにして欲しい?」



そう言って手を挙げると、



「勘弁して。顔はアイドルの命だから」



と禅夜は苦笑。



彼はもう―――






逃げ出すことをやめたようだ。




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