第34話


気が滅入っているときはこれに限る。



私はPlaceの音楽を聴きながら会社を退社した。



~『今夜も一人…



君を想って僕は空を見上げる。




無かったことなんてできない』




それは切ないバラード曲で失恋ソングだった。



タイムリーだな。



まぁ失恋したって言うほど、三田(←もう呼び捨て)のこと好きじゃなかったけれど。



でもPlaceが歌うと、どうしてこんなにも胸が苦しくなるんだろう。



どうして禅夜の声は―――切なくさせるんだろう。



スマホじゃなく、直接彼の声が聴きたい。



「ずっ」



鼻を啜って目頭を押さえながら会社の自動扉をくぐると、



すぐ脇の生垣の塀に、男が一人―――腰を下ろしていた。



黒のパンツに白のカットソー。グレーのパーカーと言うシンプルないでたちだったけれど、



夜の闇の中でも輝くその姿が






禅夜だと気づいた。






へ―――……?



禅夜は私を見つけると



「あ、お疲れ~」と気軽に手を振ってきた。



「何で!?」



みっともないほど声がひっくり返ってしまったのはそれぐらいびっくりしたことだから。



「もう打ち合わせはないわよ?」



思わずそう言うと



「打ち合わせのためじゃない。これは完全なプライベート」



そう言って彼は立ち上がり






「環に会いたかったんだ」








無邪気な少年のような笑顔を浮かべて彼はまるで当然のように言ってのけ、私はまたも目をまばたいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る