第32話
三田さんの腕に抱かれながら、でも
思い浮かべていたのは禅夜の姿だった―――
彼のまなざし、彼の手の感触、体温、香り―――
全部が三田さんと違って、想像の中の禅夜は目の前の三田さんよりずっとずっと優しかった。
久しぶりのセックスに少し疲れたってのもある。緊張もしてたし。
てか緊張して気持ち良かったのかどうかも分からない。
私は行為のあとすぐに寝入ってしまって、
朝目が覚めると、隣に三田さんの姿はなかった。
“ごめん、仕事が入ったからもう行くね。
ホテル代は払っておいたからチェックアウトだけして”
とそっけないメモ書きを見て、
「何やってんだ、自分」と早速後悔。
遊ばれただけ、だと気づいたのは割りとすぐだった。
身近な存在ですら手に取ることができないようだ。
どうせ遊ばれるのなら、ちょっとズレてるけど美しく、微細ながらどこか心に残る色気のある禅夜の方が良かったわ。
と冷めた目でメモをゴミ箱に捨てて、私はホテルを後にした。
――――
その後、当然ながら三田さんからは連絡なんてこなくて、社内で顔を合わせても挨拶だけの随分あっさりしたやり取りが続いていた。
数日後、会社で喫煙室でタバコを吸っていた三田さんを発見したけれど、私は何となく顔を合わせづらくて立ち止まって壁に身を隠した。
三田さんは一人じゃなく、誰か違う男性社員と一緒だった。
「三田~♪俺、こないだ安藤さんとレストランに入ってくとこ見ちゃった~。
お前ら付き合ってるの?」
ギクリとして目を開いていると
三田さんはうまく否定するかと思いきや
「まさか。食事してその後ホテル行って彼女を食っただけだって」
「マジかよ。あの安藤さんと!気をつけろよ~安藤さん美人だけど
あのタイプは勘違いして彼女面してくるからな」
「その点は大丈夫だって。向こうも遊びのつもりだったのかあっさりしてるし。
ま、ありがたいけどな」
二人は私がすぐ近くに居るとも知らずゲラゲラ下品に笑っている。
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