第31話
――――
三田さんが連れてきてくれたのは会社からそれほど離れていないお洒落なイタリアンのお店だった。
「安藤さん、最近変わったね」
そう言われて私はぎこちなく頷いた。
「そう……ですか?」
だとしたら禅夜の一言があったからだ。
彼との出会いがあったから、今の私がある―――
と思いたいけれど変わったのは外見だけ。
難しい名前のパスタをフォークに巻きつけながら、緊張しながらの食事は一向に進まなかった。
当然味なんて分からない。
「安藤さん音楽って聴く?」
ぎこちない雰囲気の中、何の話の流れか忘れたけどそう聞かれて
「あ、はい」
と何とか答えた。
「どんなの聴くの?」と言う質問に
「Placeとか……好きです」
答えたあとになって後悔した。アイドルの曲を好きだって言ったら引かれるかと思いきや、その心配は必要なかった。
「Place?俺知らないなー」
………
私の食事の手は完全に止まった。
それはまだ駆け出しだけど、とても良い歌を歌うアイドル歌手で、同時に人間としての魅力がたくさんあって、そして彼らの記事を私が手がけたと言う誇りもあったのに、
その二つをあっさり無視された気がして、何となく居心地が悪い。
「どうしたの?腹いっぱい?」
「いえ…」
私は慌てて言ってワイングラスに注がれた赤ワインを口にした。
この居心地の悪さを飲み込むように。
その後話題は変わり、私は何となく会話を楽しめないまま食事を終えることになった。
そしてその後―――
三田さんは当然のことのようにホテルに誘ってきて、
それほど好きじゃないのに、何故かホテルについていってしまった。
別世界の遠い人よりも
身近な存在が
必要だから―――
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