第29話



―――




その一ヵ月後、例の記事のゲラが仕上がり、



「ふーん、まずまずだな。若干硬い感じがするが、悪くない。



その分内容の濃さでカバーしてるしな」



と編集長の満足そうな顔を見て私はほっとため息。



「良くやってくれた。なかなかの出来だぞ♪売れたら第二段だ」



勘弁してください。第二段なんて私の身がもたない。



「安藤、最近感じ変わったか?



前はもっと記事もお前自身もとっつきにくそう、って感じだったのに」



随分はっきりと言ってくれる。



「どうも」私は素直にお礼を言い、だけどその礼とは全然関係ない話題で



「そのストール気に入ってるのか?」



今日も私の首にかかってる禅夜がくれたストールを編集長が指さし、



「え、ええ。まぁ」と私は慌てて苦笑い。



誰も禅夜がくれたものだなんて気づかないはずだけど、何となく気恥ずかしくもある。



「男からの贈り物か?」



ニヤニヤ言われて、



「ち、違います!」



私は慌てて否定した。





嘘だけど。






「そっか~それなら良かった」



と横から声が入り、社会部のエリートとも言われてるライターの三田みたさん(♂)がにこにこ私を覗き込んでくる。



三田さんは、顔よし、収入よし、仕事がデキる二十六歳独身。当然狙ってる女子社員は多い。



「何だ三田、安藤を狙ってるのか?」



編集長は意地悪く笑って、



「あはは~まぁそんなところです」



三田さんは編集長の言葉を軽く受け流し、何かの書類を提出していた。



私は小さく頭を下げてその場を立ち去ったが、フロアを出たところで



「安藤さん!」



三田さんに呼び止められた。




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