第28話



―――



数日後。



私は締め切りが迫った原稿を仕上げるため、一人夜のオフィスのデスクに向かっていた。



ボイスレコーダーを再生しながら、禅夜の言葉に頭を悩まされている。



通常ならテープ起こしなんて一日もあれば仕上がるってのに。



まさかこんな言葉をそのまま載せるわけにはいかないし。



てか何を考えてるのよ、あのアイドルさまは。



呆れながらも、一向に進まない原稿と画面とにらめっこ。



禅夜のふざけた受け答えもそうだけど、彼らの魅力を伝えなきゃと言うプレッシャーと言うのもある。



みんながまだ知らない一面を、読者の皆さんに伝えたい。



そして彼らの魅力に気づいてもらいたい。



考えてたら…目が痛くなってきた。



諦めて、私はたった三枚出てるシングルCDの曲をスマホで再生した。



アイドルのCDを買うなんて恥ずかしいけど、でもすぐに三枚買ってしまった。



勉強のためよ、原稿のためよ、なんて言うけどあの短い一日で彼らのことをもっと知りたくなった。



ミーハーなファンじゃないなんて言ったけど、私は彼女たちとなんら変わらない。



はじめて聞く彼らの声は、さすが事務所が推すエリートグループなだけあって上手かった。



特に禅夜の声は、澄み切るテノール。



声量も申し分ないし、高音もブレたりなく安定している。



それはしっとりとしたバラード曲だった。



愛の言葉を乗せた禅夜の声が私の耳を心地よくくるくる回る。






~♪肩肘張らないで、無理しないで



僕が居るよ。



僕の手をとって、さぁ一緒に歩こう







曲を聴きながら私はキーボードに指を滑らせた。




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