第26話


「アイドルの悩みなんてあなた方からすると大したことでもないと思いますけど、



でもあいつ…このところずっと思い悩んでて、大げさかもしれないけど人生の岐路に立っているって意識してるようでした。



あんまり自分のこと話さないけど、見てて分かります。付き合いが長いから」



人生の岐路―――……




「女の子にキャーキャー言われて、それで稼げるんだからおいしい仕事だとは思いますけど、



あいつ本当は顔じゃなくて歌で売れたいんですよ。



事務所の戦略と自分の目指したいものの間で揺れに揺れて葛藤してるんです」



そう言えばそんなようなこと言ってた…



でも思いつめた印象を受けなかった。



だって彼は笑って軽い調子で…






「あいつが今日インタビューに答えなかったら、きっともう本当に辞めてた。




それをあなたが連れてきてくれた。ありがとうございます」



丁寧にお礼をされて、私は戸惑いながらも黙って頭を下げるしかなかった。



『ありがとうございます』なんてこと私は何もしてない。



自分の言いたい事喚いて、泣いて、相手アイドルだって言うのに足蹴にしちゃったし。おまけに説教までしてしまった。



インタビューに答えてくれたのはまさに奇跡としか言いようがない。



それでも



来てくれた。



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