第15話


「分かってるわよ……」



もう一度呟いて、その語尾が震えているのが分かった。



「ちょっとおねーさん…?」



岩本 禅夜が私の足元にかがみこみ、俯いた私を覗き込んでくる。



さっきは噛み付きそうな勢いだったのに、今は困りきった子犬のような目で私を見上げている。



「わ、私だって……恋愛したいわよ。



かっこいい男の子にこんなことされたら…嘘だと分かってても一瞬ドキっとしちゃうのよ」



私は一体何を言い出すんだ……自分で自分が信じられなかったけれど、暴走は止まらない。



膨れ上がった感情が涙になって目頭を熱くする。






「おねーさん……





安藤 環さん」





ふいに名前を呼ばれて、いつの間にか私と同じ目線まで顔を上げていた岩本 禅夜が私の頭を優しくぽんぽん。



またもドキリとして



私はその手を慌てて振り払った。



「何で私の名前―――…」



「これ」



岩本 禅夜は私の首から下がった社員証のネームプレートを指さし、





「俺が悪かったよ。ごめんね、





環」





次の瞬間もう呼び捨てとか―――



可愛い笑顔に全部…



ゆ、許





………せるかーーー!!!






またも怒りが湧きあがってきて、私は岩本 禅夜からネームプレートを奪った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る