第30話
取り敢えず、喧嘩する為に理由が必要ってわけね。
分かっていたけど、私は会長を呼び出す為の餌。
「残念だけど、私を攫ったところで意味はないわよ?」
私の言葉に彼は不思議そうに首を傾げる。
「…何故だ?」
「私と会長は恋人じゃないもの。お互いに恋愛感情は全く無いわ?利があるから、副会長になっただけ」
「……それは…」
何やら考えるように彼は口を噤む。
そこで私は、彼以外の男達がいつの間にか部屋から消えている事に気がついた。
「……あら?他の方々は?」
「ん?ああ。最初からアンタが起きたら、出て行けって言っておいたからな」
……あんなに沢山の人達が騒いでいたのに。
出て行っていたのは気が付かなかったわ。
……まだ本調子じゃないわね。
「ところで姫さん、名前は?」
「礼奈よ。北見礼奈。姫さん呼びは辞めて頂戴」
「了解。俺は
「環、ね。…で?帰っていいかしら?」
「いや、帰っていいわけ無いだろ?」
「環は私の話を聞いていたの?私と会長の仲はびっくりする程、冷え切っているのよ」
私を攫ったところで意味が無いのよ。
「聞いてたさ。でも、試してみねぇと分かんねぇだろ?」
「……そうかもね?私を巻き込むのは辞めて欲しいけど」
私以外でやってくれないかしら?
そりゃ、環の言ってる事だって分かるわよ。
別に私は会長達の助けが来なくても困らないし、構わないのだけれど。
このまま私が音信不通だと、面倒臭い人達が動き出しちゃうから、それだけは阻止したい。
「攫ったからには利用させてもらうぞ?」
「……仕方が無いわね。…でも一つだけ、条件があるわ」
環がそうしたいのなら好きにすればいい。
抵抗するのも面倒臭いわ。
「なんだ?」
「一人だけ連絡したい人がいるの」
「……許可しろと?」
「勿論文章を打つのは環がやればいいわ。ただ、私が帰らないと心配する人がいるから」
海は心配性なのよ。
帰る事が出来ないなら連絡入れとかないと、後で私が叱られるのよ。
「……分かった」
「ありがとう。…それから、私の鞄から水色の大きいポーチも取ってくれるかしら?」
私の鞄は環の座るソファに置かれている。
私の指示に環はすぐ動いてくれる。
鞄の中に見られて困るような物は、入っていないから漁られても困らない。
「…これか?」
「そうそう、ありがとう」
ポーチを環から受け取って、自分の横に置く。
それから手渡されたスマホのパスワードを開いて環に渡す。
「あ、お水も貰える?」
「ああ。…少し待て」
部屋の隅に置かれた小型の冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して投げて寄越す。
「ありがとう。……そうそう、ラインのアドレスに“海”って、登録してある。そこに『ごめん、今日は帰れない。心配しないで早く寝なさい』って、送っておいて」
「……本当に俺でいいのか?」
「勿論。それに環は私のスマホで会長に連絡するつもりだったんでしょう?」
さっきポーチは私の鞄から出てきたけど、スマホは環が持っていたもの。
「……まぁ、そうだな」
バツが悪そうに環が顔を逸らす。
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