第29話
他にもやりようが合ったでしょうに。
薬品使われた後の事まで考えて欲しいわ。
「…アンタ、俺達が怖くねぇのか?」
褐色の男が面白そうに私を見つめる。
多分、彼がこの場所のリーダーなんだろうな。
ここにいる人達は双葉の生徒なのかな?
「……どうして?」
「…俺達は紫蘭と敵対してるんだぜ?」
そんな当たり前のことのように言われても……。
「だから?私が紫蘭に通っていても、貴方達とは無関係でしょう?」
敵対とか知らないわ。
勝手に喧嘩でも何でもすればいいと思うわよ。
「…襲われる、とは思わねぇのか?」
「襲うなら、寝ているうちに縛るなり何なり出来たじゃない。わざわざ拘束も無しで、逃げられるリスクを犯す必要は無いんじゃなくて?」
確かに女性のほうが男性より力は無くても、いざって時には何が起こるか分からない。
万全を期すことは大切だ。
「それだけで俺達を信用すると?」
探るような視線を褐色の男から向けられる。
「大丈夫よ?1ミリも信用するしてないもの」
ただ、拘束無しの現状に少しばかり疑問が生じただけ。
だってそうでしょう?
私が紫蘭の副会長だから、会長の恋人だと思われて攫われた。
紫蘭のリーダーは会長なのだから、その弱みとなり得る恋人を人質としたい。
極々普通の思考回路だ。
そうやって手に入れた手駒なら、手足を縛るなりして拘束しておけばいいのに。
まあ、残念な事に私と会長の間には、1ミリ単位も恋愛感情など無いのだけど。
「それにしちゃ余裕だな?」
「焦ったところでどうにもならないでしょう?……ところで今何時かしら?」
無駄口叩いてる暇は無いわ。
時間を確認したくても時計が見当たらない。
窓から月明かりが漏れているから、辛うじて夜だと判別できるけれど。
……うちの子達、心配してないかしら?
下手に騒がれても困るのだけど……。
「…今?…8時過ぎだ」
「……そう。それじゃあ、早めにそちらの御用をお聴きするわ」
せめて連絡手段があれば海に現状報告が出来るのに……。
流石に荷物は没収されていて、私の手元には無い。
「…ああ、気がついてるかもしれねぇが、紫蘭と喧嘩がしたいんだ」
ポリポリと首の後ろを掻きながら、言ってくれるのは結構だけど。
「勝手にすればいいでしょう?」
それこそ突然会長にでも殴り掛かればいいじゃない。
そしたら喧嘩になりそうでしょう?
ま、完全に奇襲になるから卑怯かもしれないけど…。
手っ取り早くていいでしょう?
「あ、あー…俺達、一度如月には負けてんだよ」
…知らないわよ。
そんな報告要らないわ。
「…そう?じゃ、諦めたら?」
負けたなら大人しく認めて静かにしていればいいのに。
「…そういうわけにもいかねぇんだよ」
苦笑して彼は茶色い瓶に入った液体を飲み干す。
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