第28話

全く面倒臭い。



「ああ、俺ね…」



フッと口角を上げた彼の言葉に耳を澄ます。



「紫蘭と敵対している、双葉ふたばの生徒なんだ♪」



楽しそうな彼の言葉。

ぐっと距離を詰めた彼の手が口元に伸びてくる。

手に握られているのは白いハンカチ。

気がついた時には遅かった。


鼻につく薬品の匂い。

ぐらりと脳が揺れた。

手から買ったばかりの食品が入った、エコバッグが滑り落ちてドサリと音を立てた。



「…捕まえた、紫蘭のお姫様♪」



歌うような軽やかな彼の声音。

薄れ行く思考の中で、紫蘭と敵対している3校の存在を思い出す。


南の紫蘭、東の双葉、西の清華せいか、北の条翔じょうしょう

この周辺地域に昔からの存在する有名な不良校。

この4校はいつの頃からか、敵対し合い何度も抗争を繰り返して来た。

地域では悪名轟とどろく不良校。

紫蘭はその中でも平和主義的学校。

それでも未だに4校の確執は強く、不良達が集まり喧嘩などを繰り返している。


……ああ、そうか。

紫蘭の副会長になるということは、敵対している3校から狙われるのか……。


………。

……………。

…………………。



……頭がぼうっとする。

耳の端で賑やかな騒ぎ声がする。


……ああ!!

煩いっ!!


ただでさえ頭がガンガン痛むのに。


フッと瞼を開く。

視界に飛び込んで来たのは見覚えの無い裸電球。


………何処?



「……お?目ぇ覚めたか、お姫様?」



ひょこっと私の顔を上から見下ろす、真っ黒な髪に褐色の肌の男。

鍛え上げられた身体は男らしい肉体美を誇っている。


……誰、この人?


……あ…駄目だわ。

頭が痛い……。



「…気分は?」



何も答えない私に彼が問う。



「………最悪」



ちらりと視線を彼に合わせて軽く睨む。

視線だけを動かして周りを見れば、複数人の男達がお酒やら煙草やらを片手に騒いでいる。


そんな私の様子に彼はケラケラと笑って。



「随分、威勢が良いなぁ?」



と、面白そうに私を見下ろす。


このまま横になっているのもおかしいので、仕方無しに重怠い身体をゆっくりと起こす。

そこで私は自分がソファに寝かされていたことに気がつく。

誰かが掛けてくれたであろう、ブランケットが重力に負けて床に落ちる。


身体を起こした事で、周りがよく見えるようになると、少し離れたソファに座る人畜無害そうな小柄な男が目に入る。



「…ちょっと、貴方。薬品使わないで頂戴?頭が激痛なんだけど?…せめて殴って欲しかったわ」



眼が合うとヘラリと笑う男に文句を言う。

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