第12話

🌿秀一🌿



それは偶然だった。


夜の街中を目的地も無しにブラブラと歩く。

道路は明るく人通りも多い。夜の店が多く建ち並ぶ通り。

そんな通りをぼんやりと歩いていれば、ふわりと視界の隅を薫るような銀髪が踊る。

まるで引き寄せられるようにその髪の毛を追えば。

思った通りの人物が前だけを見て歩いていた。


こんな時間にこんな場所で、会うとは思わなかった。

彼女は俺に気づくこと無く歩き続ける。

まるで周りに人が居ないかのように、口元に笑みを浮かべたまま。



「……礼奈ちゃん?」



足早に駆け寄って声を掛ければ、ビクリと彼女の肩が跳ねて振り返る。

驚いたように見開かれた瞳が俺を捉えて。

俺を認識した瞬間、いつも通りの笑みを浮かべ、「…先輩か」と、興味無さげに彼女は呟く。



「…一人は危ないよ?」



にこりと微笑んで彼女を見つめる。

彼女はふっと笑みを深めて。



「…大丈夫ですよ?」



大丈夫という根拠は何処から来るのだろう。

絶対に危ない。



「……うん。でも今10時過ぎてるからね?」



普通に危ないから。

それにこの通り変な勧誘とか多いし。

勿論、礼奈ちゃんが俺達に関わりたくないのは分かってるんだけどね。

普通に15歳の女子高生が、一人で出歩いていい時間じゃないから。



「…先輩は何してたんですか?」



こてっと首を傾げて礼奈ちゃんが俺を見る。



「散歩だよ。今は家に居れないからね」

「……そうですか」



質問してきた割に興味無さげな返事。

どうやら俺と話すことに飽きたらしく、止めていた足を進め始める。

このまま見送るわけにはいかないので、勝手に後をついて行く事にする。

礼奈ちゃんは俺を見たけれど、何も言わずに歩いて行く。



礼奈ちゃんはごちゃごちゃとお店が建ち並ぶ通りを抜け、暫く行くと周りの景色が住宅街へと変わる。

その中を礼奈ちゃんはスタスタと進んで行く。

礼奈ちゃんが足を止めたのは立派な外観の一軒家。

まあこの辺りは高級住宅が建ち並ぶ、地区だから当たり前だ。

……随分と豪華な家に住んでるんだね。

口には出さなかったけど、とても驚いた。


さて、礼奈ちゃんも送り届けたから、帰ろうかなっと思った時。



「………先輩」



ぽつりと俺の耳に届くか届かないかくらいの声量で、礼奈ちゃんの声が聞こえた。

俺が気づかなければ、礼奈ちゃんは何事も無く家の中へと姿を消す事だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る