第6話

ちらりと理沙とその他4人を見れば、ポカンと間抜けな表情を晒していた。

黒髪さんはといえば、澄ました顔で私を見つめている。

取り敢えず、私の耳が正常に働いていたとして、この人の頭は一体どういう構造なのか興味があるわ。

頭イカれてるのかしら?


そもそも会って数分の人物に「俺の女になれ」は、イカれているわよ。

どんな人物かも分からないじゃない。

…何?顔なの?

確かに私は不細工では無いわよ?

それにしたって上から目線で偉そうで、全然タイプじゃ無いわよ。

この黒髪さんが人工物かってくらいに、イケメンでも嫌よ。そういう事を言うなら、私以外の女性にしなさい。

多分、二つ返事でYESだから。



「嫌です。デメリットしか無いじゃないですか」



スパッと断ると、「え?そこっー!?」と理紗が叫ぶ。

取り敢えず理紗がいつも通りの調子に戻ってきたので良しとしよう。



「なら、副会長になれ」



……え?なんで?

もっと面倒臭い事になったんだけど。

取り敢えず黒髪先輩の思考回路が読めない……。

寧ろ何で副会長なら良いと思ったのだろう。

……え?何この人。

宇宙人?


「嫌です。そもそも副会長って生徒会長が任命できるんですよね?」

「…ああ、だからならないか?」



いえ、訳が分かりません。

どなたか通訳をお願いします。

日本語の筈なのに全く意味が分かりません。

そもそも今日生徒会役員選挙をしたのだから、今は生徒会役員は決まっていないでしょう?

確か明日張り出されるって、真島先生が言っていたわ。

眼の前の男は絶対に生徒会長になっている自身でもあるのだろうか。

……もしかして、自意識過剰?



「絶対に生徒会長になれる自信があるのですか?」



……もう、本当に帰りたい。



「…俺が生徒会長ならやるのか、副会長?」

「やりませんけど?」



なにを言ってるのこの男。

やるわけ無いでしょう。面倒臭い事は嫌いなのよ。



「…ねぇ、やりなよ、副会長」



ニヤニヤと笑いながら理紗が参戦して来た。

…これは確実に面白がってる。



「嫌よ?理紗がなったら?」

「はぁ?嫌だよ。私は逆ハー展開の生徒会を主人公の親友ポジという最高のポジション観戦したいの!?」



ああ、そういえばこの子も馬鹿だった。

…ん〜、でも理紗の妄想が糧にはなりたくないなぁ。

メリットっていえば、授業免除よねぇ…………。



「…あれ?礼奈れなちゃん?悪い顔してるよ〜?」

「ちょっと利益計算してるんだから待ちなさい?」



確かに黒髪先輩の恋人よりは利はある。

授業に出なくていいのなら、その分別の事に時間を作れるのは助かるわね。

ただ、女子生徒の恨み他うでしょうけど……。それと引き換えの授業免除。


ゆっくりと口角を上げる。

理紗にはこの顔が怖いとよく言われけるけれど。

その表情を意図して作り出す私は変わり者だろう。



「…分かりました。貴方が生徒会長になった時は、副会長というお役目引受させて頂きますわ」



にこりと笑みを深める。

それを聞いた理紗はケラケラと楽しそうに大笑い。

結果として理紗の希望通りになってしまったけれど。



「…ところで、貴方方のお名前は?」



お互いに名前さえ知らずに、こんな約束をしていた事に笑えてしまう。



「ん〜、そういや、名乗って無かったなぁ」



ええ、知りません。

本当なら名前さえ興味は無いのですが。



「俺は綾崎琉生あやさきるい。高2だよ。よろしくなぁ、お嬢さん?」



ゆるゆるとした雰囲気で、口に咥えていた煙草を携帯用の灰皿に捨てて。

高校生には見えない色気と艶気のある彼は、するりと私の右手を下から掬い上げてキスをする。

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