第4話

一目見ただけで顔の名前が出てくるのって凄いことよ。

先生にはクラス名簿があるだろうけど、それでも凄いことだと思うわ。



「…へぇ?男目当ての女子生徒が多いんだぞ、この学校」



仮にも教師が呆れ切った表情で溜息つかないほうがいいわよ。



「馬鹿なんですね、その方々」



先生は私の言葉にケラケラと笑う。

表立って同意はしないけれど、ほぼ同意見ってところかしら。

高校を選ぶ基準が男なんてどうかしているわ。

もっと見るべきところや大事な事が他にあるでしょうに。



「ほら、北見も投票して来い」



ひらひらと手を振られて追い払われる。



「…はい。投票用紙、ありがとうございました」



先生に小さく頭を下げてその場を離れる。

そのまま女子生徒に群がられている男子生徒を視界に入れることなく、出口付近の投票箱に投票用紙を入れる。

それから邪魔にならない位置に移動して壁により掛かる。

聴こえてくるのは、女子生徒の黄色い色めきだった歓声と先生達の声。

私はざわめく熱気を肌に感じながら目を閉じた。




生徒会役員選挙は無事終わり。

生徒達が帰路に着く中、私は理紗に校舎内を連れ回されていた。

どの学校も造りは変わらないのだから、何も入学式当日に探検しなくてもいいと思うの。

この子は一体何が面白くてこんな事をしているのかしら?

丸一日学校に居たから私は疲れたわ。



「……帰りましょう?」



歩くの疲れたわ。



「…んー?そうだねぇ」



にっと振り返った理紗にホッとする。

人気の無くなった廊下は静か。

かれこれ丸一日学校に居たからやっと帰れるというのに。

柄の悪い男子生徒が数人こちらへ向かって歩いて来るのが視界に入る。何も無ければいいなと思っていると。

男達も私達に気がついたらしく、足取り軽く駆け寄って来る。



「ねぇねぇ、何やってんの?」

「学校見学ー?俺達が案内してやるよ」



全くやっと帰れるというのに邪魔しないでもらたい。



「結構です。もう帰りますので」

「遠慮なんてしなくていいから〜」



遠慮ではなく普通に迷惑です。

ヘラヘラと笑いながら勝手に腕を掴んでくる男達。



「いいから♪いいから〜」



人の話は聞いてないのだろうか。

笑顔でグイグイと腕を引かれる。正直、地味に痛いから辞めてほしい。

男達が無理矢理何処かへと連れて行こうとする。

暢気のんきに何処に行くのかしら?なんて、考えていたら大変な事になりそう。



「…リ〜ちゃん、大丈夫そ?」



同じように腕を引かれる理紗を見る。



「うん♪」



あらまあ、全然大丈夫そう。

意外と絡まれるのは慣れてるものね。



「…離してくださいませんか?痛い目見ますよ」



私なりにとても優しい忠告だったのに。

ケラケラと笑い飛ばす男達。

………仕方が無いわね。


スッと姿勢を正した時。



「何やってんの〜?」



のんびりとした緊張感の無い声音が後ろから聴こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る