第10話
放課後の屋上は、風が気持ちいい。
そのことに味をしめたわたしは、架くんを探しに行くという名目で、屋上に足を運ぶようになっていた。
「架くん、こんにちは」
「お前、また来たの」
「一応お世話係だからね」
我ながら、ウザいと思う。
それなのに、架くんは文句を言ってきたことは一度もなかった。
「今日は風が強い」
「スカート捲れないように気を付けろよ」
「あー、そうだね」
スカートを押さえながら、わたしは寝転んでいる架くんの隣に座る。
制服が汚れそうだ。
だけど架くんに比べればマシだろう、と思う。
「どうしていつも屋上にいるの?」
「誰もいないから」
わたしが質問すれば、彼は答えてくれる。
ウザいとは思わないのだろうか。
「それだけ?」
「それ以外に何があると思った?」
「風が気持ちいいから、とか」
「まあ、それもある」
わたしはブレザーのポケットから鍵を取り出して、架くんに見せた。
彼は目を細めてその鍵を手に取った。
「何」
「柴田先生からやっと第一図書室の鍵を貰った」
「良かったな」
「旧校舎、誰もいないよ」
その言葉に、架くんは視線をわたしに移した。
鍵を手でいじりながら小さく笑う。
「何が言いたい?」
「屋上じゃなくて、第一図書室に来ない?」
「どうして」
わたしは青空を見上げながら、目を細めた。
太陽の光が眩しい。
「一応、わたしが君の勉強を見なきゃいけないことになっているわけじゃないですか」
「そういえばそうだ」
「屋上で勉強は出来ないよね」
「だけどその第一図書室に行ったって、俺は勉強する気なんてないけど」
わたしは肩をすくめた。
期待なんてしていなかったから、彼の回答に落ち込むことはない。
「来てくれさえすれば良い。そうすればわたしは怒られないで済む」
「何。お前、朋希に怒られたくないだけ?」
「だってあの人、怖いじゃん」
わたしがそう言うと、架くんは声を上げて笑った。
この人もこういう風に笑うのか、と不思議に気持ちになる。
「顔は好きなんだろ?」
「顔は好き」
「でも怖いんだ?」
「顔と性格は別でしょ」
架くんは笑いすぎて目に涙を浮かべている。
そんなに面白いだろうか。
「分かんねぇ」
「とにかく、わたしは柴田先生に怒られたくないのだけど」
「それじゃあ、考えておくよ」
彼は目の端の雫を指で払うと、さっきと全く同じ格好に戻った。
まだ帰るつもりはないようだ。
わたしは足を伸ばした。
目を瞑る架くんの顔を盗み見る。
柴田先生に似た、綺麗な顔だ。
「何」
「うん?」
「じろじろ見られてるの、気付いてるからね」
「それは失礼」
見つめていたのがバレてしまって、わたしは彼の顔から視線を逸らした。
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