秋の終わり

第24話

秋も深まって、風が冷たくなってきた。

今日は、久しぶりに空と出掛ける予定だった。

遊園地に行ってからは一ヶ月近く経っている。

メールに書いてあった時間に家を出ると、門に寄り掛かる彼の姿が見えた。

いつも予定より早く来てるな、と思いながら、わたしは空に声を掛けた。


「待たせてごめん」

「そんなに待ってないですよ。先輩、お久しぶりです」

「久しぶり。勉強頑張ってる?」

「頭がパンクしそうです」


勉強のことを思い出したのか、彼はげんなりとした顔をして見せる。

わたしは笑いながら、彼の隣を歩き始めた。


「寒くなってきたね」

「そうですね。あんまり薄着しちゃだめですよ?」

「寒がりだから薄着なんてしない」

「安心しました」


今日はどこに行くのだろうか。

そう思っていると顔に出ていたのか、空がちょうど口を開く。


「今日はお散歩デートしましょう」

「え、外? 寒いし、人に見られるし、嫌だ」

「暖かくしてるから大丈夫じゃないんですか?人に見られるのは僕は気にしないので大丈夫です」

「君の都合じゃない」


この近くに観光名所の池がある。

ちょうど紅葉も見ごろになってきたから、そこに行こうと彼は言うのだ。

確かに身近すぎてあまり行ったことがないし、知り合いが行きそうにもない場所だ。


「でもやっぱり寒い。着込んでいても寒いものは寒い」

「僕が温めてあげましょうか?」

「断固拒否する」


それでも上手く言いくるめられて、わたしたちはそこに行くことになった。

会っていなかった間に何をしていたのか話しながら、のんびり歩く。


「そう言えば、文化祭ってそろそろじゃなかった?」

「先週でした。そうだ、咲彩先輩も呼べば良かったのか。失敗したな」

「呼ばれても行かないけどね。クラスの出し物は何したの?」

「カフェです。他のクラスはあんまり時間を取られない展示物とかにしてたんですけど、うちのクラスの奴らは受験に対する意識が低くて」

「ああ、そう言えばわたしたちの時もそんな感じだった」


高校時代のことを懐かしみながら、話を聞く。

そう言えば、わたしも高三の時はカフェをやった。


「僕はウェイターで、ちゃんと衣装も格好いいのを用意してもらったんですよ?」

「さぞかし人気だっただろうね」

「僕があまりにもイケメンだから、女の子のお客さんが後を絶たなくて、大繁盛でした」

「自分で言うな」


あまりにも誇らしげに言うから、むかついて脇腹に肘を入れてやった。

空は痛がりながら、思い出したように言う。


「咲彩先輩が三年生の時もカフェでしたよね?」

「よく覚えてるね」

「忘れるわけないじゃないですか。僕も行きましたし」


言われてみれば、そうだったような気がしてきた。

バスケ部の一年生がみんなで来ていったはずだから、その中に彼もいただろう。


「男装カフェね」

「そうそう。咲彩先輩がすごくイケメンで写真撮りまくったんですよね」

「え、それは気付いてなかった。何してんの?」

「多分まだその写真ありますよ。今度送りましょうか?」

「消せ。この世から抹消しろ」


そんなことを言いながら、彼は上を見る。

つられてわたしも視線をやると、黒い雲が目に入った。


「なんかちょっと曇ってきたね」

「さっきまで晴れてたのに」

「女心と秋の空、て言うでしょう? 変わりやすいの」


わたしがそう言うと、空は溜息をついてわたしを見る。


「先輩の心もころっと変わって僕のこと好きになってくれたらいいのに」

「その場合、またころっと変わって、君のことなんかすぐに嫌いになるよ」

「酷いですね」


そうやっているうちに、頬にぽつりと雫が落ちて来た。

雨粒が次々とアスファルトを黒く濡らしていく。


「うわ、本当に降ってきた」

「しかも結構強いですね」

「家に戻ろう! ここからなら帰った方が早い」

「良いんですか?」

「ただの雨宿りでしょう?」


わたしは来た道を引き返して走り出す。

空も遅れてついて来た。


「先輩、ちょっと待ってください」

「何?」


振り返ると、彼が上着を脱いでわたしに渡してくる。

意味が分からなくて、眉をひそめた。


「これ被ってください。濡れちゃいますよ」

「ああ、そう言うこと。でもそうしたら君が濡れるでしょう?」

「僕は濡れても大丈夫です。馬鹿なので風邪引かないし」


走りながらだから、早く解決したかった。

わたしは大人しく上着を受け取ると、空の隣にくっついて走る。


「半分ずつにしよう。わたしのせいで君が濡れるのは心苦しい」

「今、僕的に物凄いラッキーなんですけど」

「変なこと言ってないで早くそっち持って!」


二人で一枚の上着を傘にして、家まで走った。

だけど結局、空はわたしが濡れないようにしてくれて、彼の方はびしょ濡れになってしまっていた。

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