第22話

空と二人で遊園地に行ってから、数週間が経った。

あれからは本当にあまり会いに来なくなって、ほぼ毎日学校に迎えに来ていたのも、週に一度ほどに減った。

デートと言う名のお出かけも、あれ以来していない。


「最近、空くんとどうなの?」


元の日常に戻りつつある平和な生活を送っているのに、学校を歩いていると、わたしを見つけた真希がニヤニヤしながら話しかけてくる。

真希は完全にわたしたちのことを面白がっているようだ。

事あるごとに「付き合っちゃえばいいのに」と茶々を入れてくる。

だけど彼女の想像するような展開にはなっていないのが現実だ。


「あんまり会ってない」

「え?」


わたしが平然と答えると、真希は驚いたように足を止めた。

わたしは彼女を置いて歩き続ける。

空と再会してからというもの、忘れかけていたスルースキルがまた身についた。


「嘘、捨てられたの?」

「わたしが振られたみたいな言い方やめてよ」


いつも空が迎えに来ているのを見ていた人たちからすれば、わたしが飽きられたように見えるだろう。

いても迷惑なのに、いなくても迷惑な奴だ。


「何で会ってないの?」

「あいつが会いに来なくなったから。そしたらわたしたちが会うことなんてなくなる」

「え、咲彩、本当に飽きられたの?」


やっぱり真希も盛大に誤解している。

友達にまで誤解されたくないから、わたしは振り返って説明を始める。


「あいつ、受験生でしょう? さすがに勉強しないといけない、って」

「あー、なるほど」


彼女は納得したように何度も頷いた。

分かってくれて何よりだ。


「寂しいね」

「なんでわたしが?」

「冗談だよ」


真希はわたしの隣に並んで顔を覗き込んでくる。

そしてわたしの表情を見て、またニヤニヤと笑い出す。


「でもすっきりした顔ではないね?」

「そりゃあ、散々付きまとわれた生活が一ヶ月以上は続いてたわけだから。生活リズムが若干変わったって感じ」

「なるほどね。寂しいわけではないと?」

「寂しくはない」


正直に言うと、空とあまり会わなくなって、少しくらいは寂しいと思うようになった。

今までずっとそうやって生活したきたはずなのに、隣でうるさい彼がいないと、あまりにも静かすぎる。

だけどこれがわたしの望んでいた状況だ。

また一ヶ月くらい経てば、寂しいとも思わなくなるだろう。

わたしも、空も。


わたしの表情を観察していた真希は、思い出したように口を開いた。


「そう言えば、昨日わたしが帰ろうとしてた時、いつも空くんがいる辺りに高校生がいたよ」


その話を聞きながら、適当に相槌を打つ。

誰かの妹か弟だろう。


「空くんの高校の女の子で、近づいて話を聞いて見たら、咲彩のこと探してたみたい」

「どうして近づいて話を聞いたの?」


良くも悪くも彼女の好奇心のまま行動する性格は真似できない。

昨日は授業が昼で終わって、わたしはすぐに帰った。

その女の子はそのことを真希から聞いて、大人しく帰ったらしい。


「どんな子だった?」

「なんかふわふわしてる女子力高そうな子」

「雑だな。もっと具体的な特徴ないの?」

「名前聞いたんだけど、忘れちゃった」


だけどわたしは彼女の雑な説明でも心当たりがあった。

溜息をついて、真希に尋ねる。


「もしかして、白川っていう人じゃなかった?」

「あー、そうかも。そんな名字だった。下の名前はまるで思い出せないけど。何、知ってる子?」

「うん、まあね」


出たな、白川。

わたしに会いに来た理由は見当がつく。

空に振られたことだろう。

文句でも言いに来たのだろうか。


「また来るとか言ってた?」

「ううん、何も」

「あの子も空と同じ学年で受験生なんだから、暇ではないんでしょう。もう二度と来ないことを祈るしかないかな」


そう呟くと、真希は興味津々な様子でわたしに詰め寄って来た。


「恋敵なの?」

「彼女にとってわたしはそうかもね。わたしにとってあの子は、ただの生意気な高校生だけど」


詳しく聞きたがる彼女に、この間の出来事を説明する。

それを聞いて、真希も苦笑いだ。


「最近の高校生は恐ろしいね」

「空みたいなのがいる時点で末期だけどね」

「ていうかあんた、空くんとクレープ食べに行くほど仲良かったんだ」

「率先して言ったわけじゃなくて、引っ張られて仕方なく行く羽目になったの」


面白そうに「そうかそうか」と言う彼女が、わたしの言ったことを信じているとは思えない。


「真希もストーカーされれば分かるよ」

「遠慮しておく」


他人事だから面白がって、なんという友人だろうか。

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